キンダーブラウザ開発者インタビュー:インターネットの有益さだけを、こどもに

キンダーブラウザは、2023年8月10日に最初のコミットがあり、9月19日にバージョン 1.0 が公開されました。Swift で書かれたネイティブアプリで、19言語に対応し、iPhone、iPad、Mac で使えます。価格は日本で1,500円、米国で9.99ドルの買い切りで、アプリ内課金はありません。
2025年1月末から開発が再開し、v1.6 で UI削除モード、履歴、ブルーライトカット、ホワイトリストなどが加わりました。作った hiroki に、はじまりから今の考えまでを聞きました。答えは本人の言葉をほぼそのまま載せています。
Safari を渡すのは怖かった
Q. ストアの説明文には、娘さんが学習でウェブサイトを使うときに最適なブラウザがなかったことから作った、とあります。
Scratch や NatGeo などのサイトを使わせるときに、Safari などのブラウザだと操作が難しいのと、親が見ていないときに別のサイトも見られてしまうのは怖いなと感じました。既存のアプリなども使いにくかったので、DIY 的に自分で作りました。
Q. 最初のコミットから公開まで約1か月です。これだけは入れると決めていたものは何でしたか。
親が許可したページ以外に飛べないようにする機能は必須でした。こどもが見たがるサイトの中には広告が表示されるものもあったので、アドブロックも欲しいと思いましたが、実装が少し難しかったので後回しにしました。
Q. 最初の版では、ホームの URL を iOS の設定アプリで指定する形でした。
こどもが操作できないところに設定を置きたかったからです。ただ、このデザインは親の使い勝手も悪くなるので、イマイチでした。
Q. 2023年9月から2025年1月まで、ほとんど手が入っていません。
下の娘が使うようになって、気になるところが出てきたので、そこを少しずつ直していきました。
ナイフと同じ
Q. 描く、弾く、書くといったアプリと違って、ブラウザは「何かをさせない」ための道具でもあります。
ウェブブラウザは、広大なインターネットにアクセスするためのとても便利なものであると同時に、危険なものでもあると思います。ナイフも、使い方によって便利なものにも危険なものにもなります。でも、こどもが使うものとしてよく考えてデザインされていれば、こどもがひとりでも安全に使えます。
ウェブサイトの中には、有害なものと有益なものが共存しています。インターネットの有益さだけを受け取れる道具として、キンダーブラウザのように、あえてこどもに制限を与えるツールは必要だと考えています。
Q. 保護者としての自分と、作り手としての自分で、意見が食い違うことはありますか。
特にありません。なるべく複雑にならないよう、シンプルに使えるように心がけています。それでも初期は使い心地が複雑になっていて、ユーザーからネガティブなフィードバックをもらっていました。そういう意見は耳に痛いですが、貴重だと考えています。
基本は許可しない
Q. ブロックするサイトを並べるのではなく、許可したところから始める考え方を選んだのはなぜですか。
フェイルセーフの考え方を採用しているためです。対象年齢が低いので、基本は許可しない方針のほうがいいと考えています。
Q. 同じサイトの中のリンクは通し、別のサイトへのリンクは止める、という線の引き方になっています。
許可されたサイトの中では、自由に行動できるほうがいいと思ったので、そうしています。
Q. 保護者用の画面に入るゲートは、カスタム PIN を使わない場合、掛け算に答える仕組みです。
対象年齢が低いので、掛け算で十分だと考えています。年齢が上がってきたら、カスタム PIN を使えばいいと思います。
Q. 米国のレビューに「掛け算だけで制限なしのブラウザに入れる」という指摘がありました。実際には保護者用の検索画面ですが、ユーザーにはそう見えなかったわけです。
そういうレビューを目にするたびに、インターフェイスのデザインは奥が深いと思います。基本的に、ユーザーが感じたことは正しいです。誤解を与えないデザインにしなければいけないと思っています。
UI削除モード、Webアプリモード、Mac
Q. v1.6 で入った「UI削除モード」は、ページ上の要素を選んで隠せる機能です。
邪魔な UI の要素があったときに消せるといいなと思って実装しました。
Q. 「Webアプリモード」では、ボタンの位置を左・中央・右から選べます。
Scratch のようなウェブアプリの中には、ページの下のほうに要素を固定しているものがあるので、それに対応するためです。
Q. ブラウザを表示している間は、画面が自動でオフになりません。
そのほうが便利だからです。
Q. Mac 版も出しています。
ファイル保存やマイクの権限まわりなど、ちゃんと Mac に対応したほうがいいと考えて、Mac 版を開発してリリースしました。
13歳で卒業
Q. こどもにとって、インターネットは何であってほしいですか。
世界にアクセスできる場です。こどもでもインターネットを安全に使えるようにするために、キンダーブラウザはあります。
Q. キンダーブラウザを卒業するのは、何歳くらいだと考えていますか。
13歳くらいですね。法的にもそのくらいの頃だと思います。このアプリをずっと使い続けることが良いことだとは思いません。
Q. データを集めないことを強く打ち出しています。
ユーザーとして、ブラウザの閲覧データなどを集めてほしくないと思うのは当然だと思います。判断能力が未成熟なこどものデータを使って収益性を高めようとするのは、evil だと思っています。なので、そこは強く打ち出しています。
大手のブラウザの提供者は、こどものデータも集めて、さまざまな営利活動に役立てています。それと比べると、私は収益を広げる機会を犠牲にしていると思います。有料アプリなので、ストアの検索ランキングでも相対的に弱くなります。難しいところですが、そこは自分に厳しくデザインしています。
Q. こどもが自分の端末から「このサイトを見たい」と頼む仕組みは、今のところありません。
コミュニケーションで解決する問題は、親子で直接話せばいいと思います。何でもかんでもアプリでやる、という考えではありません。
4.5と2.9
Q. 評価は日本で4.5、米国で2.9と差があります。
UI の複雑さをどこまで許容するかが、地域によって違うのだと思います。
Q. 「使い方の説明がほしい」というレビューもありました。2026年5月には、ヘルプ画面を削除して、3ページのオンボーディングに作り直しています。
説明を足すより、根本的にユーザビリティを改善するほうがいいと思ったからです。
Q. ブラウザは、相手のウェブサイトのほうが勝手に変わっていく製品です。
対応できることは対応し、対応できないことは対応しない、という方針です。ある程度は諦めています。
Q. 最初からこう作っておけばよかった、と思うところはありますか。
最初から今のように、アプリの中に保護者の領域を作るデザインにすればよかったと思います。一方で、DIY が目的で作ったアプリなので、シンプルなまま超軽量のアプリとしてずっと出していて、気づいたらユーザーが増えていた、という気楽さはよかったです。
使っている人、値段のこと
Q. 届いた声で、印象に残っているものはありますか。
シンプルだけど、とても強力なツールで助かる、というような声を世界中からいただいています。
Q. オンボーディングのおすすめサイトは、言語ごとに選び分けています。
その言語圏で人気のサイトを選ぶようにしています。
Q. 日本で1,500円、米国で9.99ドルという価格は、どう決めましたか。
StudyX が出しているアプリの価格は、買い切りで9.99ドルというのを世界的な基準にしています。この価格でちゃんと購入してくれるユーザーに恵まれれば、自分も生活できるし、アプリを改善したり新しいアプリを開発したりしていける、というラインです。ほぼすべてのアプリを世界向けに作っているので、塵も積もれば山となると思います。
Q. キンダーブラウザを使おうか迷っている保護者に、一言お願いします。
地味に便利なので、一度使ってみてください。そして、何か不満があったら気軽にフィードバックをください。できる限り、すぐに対応します。
キンダーブラウザについて
ホームとブックマークから始まり、同じサイトの中のリンクは開き、別のサイトへのリンクは、そのサイトがブックマークかホワイトリストにない限り止まります。成人向けとギャンブルのサイトを中心にした既定のブロックリストも入っています。保護者用の画面は掛け算かカスタム PIN で守られ、スクリーンタイムと組み合わせて使えます。
スクリーンタイムとの組み合わせ方はiPadのスクリーンタイムをこども向けに設定する方法に、使い始め方はキンダーブラウザの始め方に書いています。アプリの詳細はキンダーブラウザのページをご覧ください。
