チェスの駒の価値と交換の考え方

チェスの入門書を開くと、たいてい早い段階で駒の点数が出てきます。ポーンが1点、ナイトとビショップが3点、ルークが5点、クイーンが9点。キングには点数がありません。取られることがないからです。
この数字は、ルールではありません。駒を交換するときに損か得かを素早く判断するための目安です。目安なので、使い方を知っていれば初心者の負けを大きく減らしてくれますし、使い方を誤ると、勝てる局面で数字に縛られることにもなります。この記事では、点数の由来、交換の数え方、点数どおりにならない場面、そして詰チェスで駒を平気で捨てる理由を書きます。
点数はどこから来たのか
英語版 Wikipedia の Chess piece relative value によれば、駒の価値を数字で表す試みは18世紀イタリアのモデナ学派までさかのぼります。19世紀のハワード・スタントンはクイーンを10点としていて、9点が唯一の答えというわけでもありません。
近年の例では、ラリー・カウフマンが多数の対局を集計して駒の価値を見積もっています。Chess.com に転載された彼の記事では、ビショップとナイトは単独ではほぼ同じ価値で、ビショップが2枚そろうとおよそポーン半分の上乗せがある、とされています。
私はここから二つのことを読み取っています。ひとつは、1・3・3・5・9 という数字は長い経験から出てきた、かなり信頼できる平均だということ。もうひとつは、それがあくまで平均で、局面によってずれるということです。
交換は足し算で見る
点数がいちばん役に立つのは、駒の取り合いを数えるときです。考え方は単純で、自分が得る点数から、自分が失う点数を引きます。
たとえば、白のナイトで黒のポーンを取り、黒がそのナイトを別のポーンで取り返したとします。白は1点を得て3点を失ったので、差し引き2点の損です。初心者の対局でいちばんよく見る損は、たぶんこの形だと思います。駒を取れる手が見えると、取り返されるかどうかを確かめる前に取ってしまうのです。
ビショップとナイトを交換するのは、点数上は3対3で互角です。ルークを渡してナイトかビショップをもらうのは5対3で、2点の損になります。この交換には「エクスチェンジ」という名前があり、ルークを得た側を「エクスチェンジの得」と言います。先ほどの Wikipedia の記事では、多くの論者はこの差を2点ではなく1点半ほどと見ている、と書かれています。ナイトとビショップの2枚でルークとポーンを取る、といった交換も、同じように足し算で比べられます。
取る前に数えること
足し算をするには、取り合いがどこまで続くかを先に読む必要があります。私が勧めたいのは、次の順番です。
- 取られる駒を守っている相手の駒を数えます。 守りがなければ、ただで取れます。
- 自分がそのマスに利かせている駒を数えます。 攻める駒が守る駒より多ければ、取り合いの最後に自分の駒が残ります。
- 安い駒から取ると考えます。 同じマスを取り合うとき、ポーンで取ってからナイト、という順番が普通です。クイーンで先に取ると、ポーンで取り返されて大損になります。
- 最後に、取り合いが終わった時点の点数を足します。 途中で止まる手があれば、そこで止まった場合も足します。
慣れないうちは遅く感じると思いますが、数十局も続ければ、ほとんど目で数えられるようになります。
点数どおりにならない場面
点数は平均なので、外れる局面があります。初心者のうちに知っておきたいものを挙げます。
昇格の近いポーン。 7段目まで進んで止める駒のないポーンは、1点ではありません。あと1手でクイーンになるなら、ほぼクイーンと同じだけの重みがあります。
動けない駒。 自分のポーンに道をふさがれたビショップや、盤の端に置かれたままのナイトは、同じ3点でも働きが弱くなります。駒の価値は、その駒が今どれだけのマスに利いているかにかなり左右されます。
ビショップの2枚。 上のカウフマンの見積もりのとおり、2枚そろったビショップは足し算より少し強いとされています。片方を手放すときは、点数が同じでも少しだけ慎重になる価値があります。
終盤のキング。 キングに点数はありませんが、駒が減った終盤では、前に出て戦う強い駒になります。Wikipedia の記事でも、戦う駒としての価値はおよそ4点と見積もられています。
メイトできない駒。 駒の点数が多くても、それだけで勝てるとは限りません。たとえば相手がキングだけになっても、こちらがキングとナイト1枚だけなら、メイトにはできません。終盤で交換するときは、残った駒で勝ち切れるかどうかも考えます。
詰チェスでは駒を捨てる
点数の話を聞いたあとで詰チェスを解くと、少し戸惑うかもしれません。正解の手順で、クイーンをただで差し出すことがよくあるからです。
理由は単純で、チェックメイトにすれば対局はそこで終わるからです。メイトが見えている局面では、点数はもう関係ありません。9点のクイーンを捨てて相手のルークに取らせ、最後のマスを埋めさせてナイトでメイトにする「スマザードメイト」は、その典型です。詰チェスの始め方 の記事でも短く紹介しました。
逆に言えば、点数を数える習慣と、メイトを探す習慣は、両方そろって初めて役に立ちます。対局の多くの時間は点数で判断し、相手のキングの逃げ道が少ないときだけ、点数を忘れてメイトを探す。私はこの切り替えが、初心者から一歩進むときにいちばん大事なことのひとつだと考えています。
将棋と比べると
将棋にも駒の損得という考え方はありますが、チェスとは事情が違います。将棋では取った駒を持ち駒として打てるので、駒を1枚取られることは、相手に1枚渡すことでもあります。損得の差が、チェスより大きく動きます。
将棋で駒に正式な点数が付くのは、私の知るかぎり、双方の玉が敵陣に入って詰まなくなったときの「持将棋」の判定くらいです。日本将棋連盟の対局規則では、飛車と角を5点、ほかの駒を1点として数えます。これは勝敗の判定のための数え方で、駒の強さの目安ではありません。将棋には「終盤は駒の損得より速度」という格言もあり、終盤では点数より詰ませる速さが優先されます。チェスの詰チェスで駒を捨てるのと、同じ考え方だと思います。
毎日のメイト練習に
Chess365 は、2手・3手・4手・5手メイトを各1000問収録した詰チェスのアプリです。いつも白番で、ルール上指せる手ならどれでも指せて、黒は最も粘る受けを返します。問題はアプリ自前のソルバーで生成して検証していて、初手は唯一、白の駒にはどれも役目があり、2手以上の問題では初手が単にクイーンを取る手にはなっていません。点数で考えると損に見える手が正解になることも多いので、上に書いた切り替えの練習になると思います。ステイルメイトは引き分けなので、失敗になります。
アプリの使い方は Chess365 の始め方 に書きました。駒の動かし方やチェスのルールから覚えたい方には、StudyX Mindsports の入門レッスンがあります。
