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日本語学習者向け 青空文庫のやさしい名作30選

HiroHiro · Game Designer @ StudyXNiho使い方
日本語学習者向け 青空文庫のやさしい名作30選

青空文庫は、著作権の切れた日本語の本をボランティアの手で電子化している図書館です。17,000を超える作品があり、すべて無料で読めます。日本語を学ぶ人にとっては宝の山ですが、同時に迷路でもあります。有名な作家はみな揃っている一方で、旧仮名遣いの明治の随筆も同じように並んでいて、本文を開くまでどれが読みやすいのか分かりません。

日本語学習者のための読書アプリ Niho を作ったとき、この問題のために「はじめの一冊」という棚を用意しました。短く、平易に書かれた作品を30、おおよその難易度順に並べています。この記事は、その棚に一作品ずつ短い説明をつけたものです。題名のリンクは青空文庫の図書カードのページで、そこからブラウザで読むことも、テキストをダウンロードすることもできます。

並び順は私の判断で、測定したものではありません。こども向けの昔話から始まり、学校の国語で読まれる短編を経て、最後に長編がいくつか来ます。一方、文字数は実際に数えました。青空文庫の本文から、ふりがなと見出しと末尾の底本情報を除き、句読点を含めて数えて丸めた数字です。目安として、文庫本の1ページはおよそ600字前後です。

昔話と童話

こどものために書かれた作品です。文は短く、本文のほとんどが仮名です。

  1. 二ひきの蛙、新美南吉。緑の蛙と黄色の蛙が色のことでけんかを始め、冬が来たので決着を春まで持ち越します。春、池で体を洗ったふたりには、相手が違って見えます。約900字。最初の一冊にいちばん向いています。
  2. 桃太郎、楠山正雄。日本のこどもなら誰でも知っている昔話を、こども向けに語り直したものです。筋を知っていることが大きな助けになります。約5,400字。
  3. 一寸法師、楠山正雄。親指ほどの男の子が、針の刀を持って旅に出ます。約5,500字。
  4. 浦島太郎、楠山正雄。亀を助けた漁師が海の底の宮殿を訪ね、開けてはいけない箱をもらいます。約5,500字。
  5. かちかち山、楠山正雄。うさぎがたぬきに仇を討つ話です。あらかじめお伝えしておくと、この版ではたぬきがおばあさんを殺し、汁にしておじいさんに食べさせます。絵本によっては省かれている場面です。約4,200字。
  6. 花咲かじじい、楠山正雄。正直なおじいさんと欲ばりな隣人、そして枯れ木に花を咲かせる灰の話です。約3,600字。
  7. 舌切りすずめ、楠山正雄。こちらも正直者と欲ばりの話で、小さいつづらと大きいつづらの選択が出てきます。約4,000字。
  8. 野ばら、小川未明。ふたつの国の国境を、年とった兵士と若い兵士が守っています。静かで、悲しい話です。約2,300字。
  9. ごん狐、新美南吉。いたずらをした小ぎつねが、その埋め合わせをしようとします。日本の小学校で読まれる作品なので、会話の話題にもなります。約4,800字。
  10. 手袋を買いに、新美南吉。子ぎつねが町へ手袋を買いに行き、差し出す手を間違えます。やさしく、温かい話です。約3,500字。
  11. 赤い蝋燭と人魚、小川未明。人魚が、蝋燭を作る老夫婦に自分の赤ん坊を託します。ここまでの話より暗い作品です。約6,500字。

教科書でおなじみの短編

一段上がります。漢字が増え、文学的な語彙も増えますが、どれもまだ短い作品です。

  1. 蜘蛛の糸、芥川龍之介。地獄に落ちた盗人の前に、一本の蜘蛛の糸が下りてきます。芥川の最初の一作にちょうどいいと思います。約2,900字。
  2. 杜子春、芥川龍之介。昔の中国の若者が、仙人に試されます。中国の話をもとに、年少の読者向けに書かれました。約9,100字。
  3. よだかの星、宮沢賢治。みにくいと笑われるよだかが、星をめざして飛びます。短く、胸に残る話です。約5,200字。
  4. 注文の多い料理店、宮沢賢治。山に入ったふたりの狩人が、やたらと注文の多い料理店に行き当たります。おかしくて、少しこわい話です。約5,400字。
  5. セロ弾きのゴーシュ、宮沢賢治。下手なセロ弾きのもとに、毎晩ちがう動物がやって来ます。前の2作より長いのですが、筋は追いやすいです。約11,600字。
  6. 走れメロス、太宰治。友を救うため、メロスは走って戻らなければなりません。劇的でリズムのある文章で、これも国語の教科書の定番です。約9,800字。
  7. 一房の葡萄、有島武郎。同級生の絵の具を盗んだ少年を、先生がやさしく受けとめます。平易な一人称の語りです。約6,300字。
  8. トロッコ、芥川龍之介。トロッコを押す手伝いをした少年が、思っていたよりずっと遠くまで来てしまいます。約4,300字。
  9. 鼻、芥川龍之介。長すぎる鼻を気に病む僧の話です。少し古い語彙が出てきます。約5,700字。
  10. 羅生門、芥川龍之介。荒れ果てた都の門の下で、下人が雨宿りをしています。語彙ははっきり難しくなります。約5,700字。

短いが、密度の高い作品

短いものの、中身は詰まっています。ページあたりに辞書を引く回数は、このあとの長編より多くなるかもしれません。

  1. 〔雨ニモマケズ〕、宮沢賢治。没後に手帳から見つかった詩です。片仮名で、しかも旧仮名遣いで書かれています。これについては後で説明します。約350字。ゆっくり読む価値があります。
  2. 山月記、中島敦。自尊心の強い詩人が虎になります。漢文調の文体で、見慣れない熟語がたくさん出てきます。文字のおよそ3分の1が漢字で、この一覧でいちばん高い割合です。約5,800字。
  3. 檸檬、梶井基次郎。落ち着かない青年が、檸檬をひとつ持って京都の街を歩きます。筋よりも気分の作品です。約4,900字。
  4. 高瀬舟、森鴎外。罪人を舟で護送する同心が、その男の身の上話を聞きます。静かで、重い問いを残す話です。約8,700字。

長めの作品

最後の5つは、しっかりとした一冊です。最初に読むものではありませんが、多くの学習者が最終的に読みたいと思っているのは、このあたりの作品だと思います。

  1. 風の又三郎、宮沢賢治。山あいの小さな学校に、不思議な転校生がやって来ます。こどもたちの会話が東北の方言で、そこがいちばんの難所です。約30,000字。
  2. 銀河鉄道の夜、宮沢賢治。ふたりの少年が、夜空を走る列車に乗ります。賢治が亡くなるまで手を入れ続け、没後に発表された作品です。約38,000字。
  3. 坊っちゃん、夏目漱石。東京育ちの向こう見ずな青年が、地方の学校に教師として赴任します。テンポがよく愉快で、長さのわりに読みやすい長編です。約88,000字。
  4. こころ、夏目漱石。学生の「私」と、彼が「先生」と呼ぶ人の話です。三部からなる長い小説で、ゆっくりと内面に向かっていきます。約160,000字。
  5. 人間失格、太宰治。ある男の告白が、手記の形で語られます。日本語は難しくありません。重いのは内容のほうです。約73,000字。

旧仮名遣いについて

青空文庫は、それぞれの作品を底本の表記のまま収めています。現代仮名遣い(新仮名)の版もあれば、1946年まで使われていた歴史的仮名遣い(旧仮名)の版もあります。旧仮名では「いう」が「いふ」、「きょう」が「けふ」と書かれることがあります。

日本語を母語とする人には小さな段差ですが、学習者には大きな壁です。辞書は現代の表記で引くので、「いふ」で調べても役に立つ結果は出てきません。

青空文庫の図書カードには、「文字遣い種別」という欄があり、その作品の表記が分かります。「新字新仮名」なら、新しい字体と現代仮名遣いで、学習者にはこれがいちばん読みやすい表記です。上の30作品のうち29は新字新仮名です。例外が「雨ニモマケズ」で、新字旧仮名、つまり字体は新しく、仮名遣いは旧仮名です。詩の中の「サウイフモノニ」は現代の表記では「そういうものに」、「ワラッテヰル」は「わらっている」です。一行ずつ読み解ける短さなので、日本でもっともよく引用される詩のひとつとして、あえて一覧に残しました。

ふりがなについて

青空文庫のふりがなは、底本に印刷されていたとおりに記録されていて、版によって大きく違います。数えてみると、楠山正雄の「桃太郎」や「舌切りすずめ」ではほとんどの漢字に読みがついていますが、同じ楠山正雄でも青空文庫の「花咲かじじい」にはふりがながなく、代わりに「一緒(いっしょ)」のように語の後ろに括弧で読みが書かれています。新美南吉の作品はふりがなが少なめですが、そもそも本文のほとんどが仮名なので、あまり必要ありません。

この2つめの点のほうが、ふりがなより大事だと思います。上の最初の11作品では、漢字は文字全体のおよそ11〜25%です。芥川や中島敦になると30%前後になります。ふりがなが教えてくれるのは読み方で、意味ではありません。難しさの目安としては、漢字の割合のほうが役に立つと私は考えています。

辞書を引きながら読むなら

この30作品は、私が作っている iPhone・iPad 用の無料の読書アプリ Niho の「はじめの一冊」の棚にすべて入っています。底本に印刷されたふりがなをそのまま表示し、必要なくなったらオフにできます。語を長押しして「辞書で引く」を押すとページの上に意味が出て、「食べました」から「食べる」のように活用形からも引けます。調べた語は出会った文ごと保存され、数日後に短いクイズでもう一度出てきます。旧仮名遣いの版はダウンロード前に分かるよう表示しています。広告もアカウント登録もありません。

もちろん、上の作品はすべて青空文庫のサイトでそのまま読めます。どちらで読むにしても、私のおすすめは、今夜のうちに1番を読み終えることです。約900字なので、お茶を一杯飲むくらいの時間で終わります。

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