旧仮名遣いの読み方:いふ、ゐる、てふてふ

今の日本語の仮名遣いのよりどころは、1986年7月1日に内閣告示第1号として出された「現代仮名遣い」です。その前書きには、歴史的仮名遣いは明治以降、1946年の「現代かなづかい」が出るまで社会一般の基準として使われていたこと、そして今でも歴史的仮名遣いで書かれた文献を読む機会は多いことが書かれています。
この記事は、本来は日本語を学んでいる方に向けて英語と中国語で書いたものを、日本語でも読めるようにしたものです。
青空文庫には、この歴史的仮名遣い、いわゆる旧仮名遣いで書かれた版がたくさんあります。「いう」が「いふ」、「いる」が「ゐる」と書かれ、「ちょうちょう」は「てふてふ」になります。初めて見ると別の言語のようですが、規則の数はそれほど多くありません。
最初に覚える4つの規則
文化庁のページには、現代仮名遣いと歴史的仮名遣いの対照表が付いています。全部を覚える必要はありません。私は、学習者が最初に覚えるのは次の4つで足りると考えています。
**1. 語の途中と終わりの「は・ひ・ふ・へ・ほ」は「わ・い・う・え・お」と読む。**いちばんよく出てくる規則です。「いふ」は「いう」、「思ひ」は「思い」、「考へる」は「考える」、「かは(川)」は「かわ」です。語の最初にある「は」や「ほ」はそのまま読みます。「花」は「はな」のままです。
2. 「ゐ」は「い」、「ゑ」は「え」と読む。「ゐる」は「いる」、「植ゑる」は「植える」、「こゑ(声)」は「こえ」です。どちらも今は使わない仮名なので、見ればすぐ分かります。
3. 語の途中の「を」は「お」と読む。「をとこ(男)」は「おとこ」、「とをか(十日)」は「とおか」です。助詞の「を」は今も「を」と書くので、ここは迷いません。
**4. 「あう・かう」「えう・けう」「てふ」は長い音になる。**ここだけ少し慣れが必要です。「かう」は「こう」、「さう」は「そう」、「やう」は「よう」と読みます。「けふ」は「きょう(今日)」、「てふ」は「ちょう」です。「てふてふ」は、「てふ」が「ちょう」になって、「ちょうちょう(蝶々)」です。
この4つが分かれば、旧仮名の文章のかなりの部分が読めると思います。ほかにも「くわじ(火事)」が「かじ」になるといった規則がありますが、出てきたときに覚えれば十分です。
小さい「っ」「ゃ」がない
もう一つ、仮名遣いとは別に、古い本では小さい「っ」「ゃ」「ゅ」「ょ」を使わずに、大きく書くことがよくあります。夏目漱石の新字旧仮名の版は「坊っちやん」で、「や」が大きく書かれています。
安西冬衛の詩「春」は、一行だけの詩です。
てふてふが一匹韃靼海峡を渡つて行つた
「てふてふ」は「ちょうちょう」、「渡つて行つた」は「渡って行った」です。規則4と、この小さい仮名の話の両方が、一行に入っています。
声に出すとき
旧仮名遣いは書き方の決まりで、読むときの音は今と同じです。「いふ」を「いふ」と発音するわけではなく、「いう(ゆう)」と読みます。ですから、規則を覚えたら、目で見た仮名を頭の中で今の仮名に置き換えて読めばよいのです。最初はゆっくりですが、何ページか読むうちに置き換えが速くなっていきます。
旧字体:國、學、氣
青空文庫の表記には「新字」と「旧字」の区別もあります。旧字は、戦後に字体が整理される前の漢字の形です。「國」は「国」、「學」は「学」、「氣」は「気」、「體」は「体」、「會」は「会」です。
2010年の「常用漢字表」は、今の字体と形の違う字の一部に、いわゆる康熙字典体を丸括弧に入れて添えています。たとえば「国(國)」のようにです。旧字体の字が分からないときは、この表で今の形を探せます。
仮名遣いと字体は別々に変わったので、青空文庫には「新字旧仮名」(字は今の形、仮名遣いは古い)の版も、「旧字旧仮名」(どちらも古い)の版もあります。
新仮名の版と旧仮名の版、どちらを読むか
同じ作品に新字新仮名の版と旧仮名の版があるなら、私は新字新仮名の版を勧めます。理由は辞書です。学習者の使う辞書は今の仮名遣いで引くようにできています。「いふ」や「ゐる」をそのまま引いても、出てこないことが多いのです。
旧仮名の版しかない作品もあります。宮沢賢治の「雨ニモマケズ」は新字旧仮名で、片仮名で書かれています。「サウイフモノニ」は「そういうものに」、「ワラッテヰル」は「わらっている」です。上の規則1、2、4で読めます。こういう短い作品なら、旧仮名に慣れる練習にちょうどよいと思います。
Niho で旧仮名の版を見分ける
私は、青空文庫の17,000以上の作品の目録が入った iPhone・iPad 用の無料の読書アプリ Niho を作っています。
作品の詳細画面には、表記が「新字新仮名」「新字旧仮名」「旧字旧仮名」「旧字新仮名」のどれかで出ます。ジャンルの棚には新字新仮名の版だけを並べていて、旧仮名の版は検索でだけ出てきます。旧仮名の版をダウンロードしようとすると、その前に「この版は旧仮名遣いで書かれているため、辞書で引けないことがあります。新仮名の版のほうが読みやすいです。」と表示します。
Niho の辞書は、「食べました」から「食べる」のように活用した形を辞書形に戻して引けますが、この戻し方は旧仮名遣いには対応していません。旧仮名の版を読むときは、上の規則で頭の中で今の仮名に直してから考えるのがよいと思います。選択メニューの「Jisho」から、ウェブの辞書で調べることもできます。
ふりがなは底本にある箇所だけに表示され、オフにもできます。ふりがなを外す時期についてはふりがなを外していくタイミングに、青空文庫の図書カードの見方は青空文庫とはに書きました。
