詰将棋の細かいルール:無駄合い、持ち駒余り、最短手順

詰将棋を解いて答えを見たとき、「なぜこの手順が正解なのか」と引っかかることがあります。自分の手順でも詰んでいるように見える。玉方はもっと早く詰む逃げ方をしていない。合駒をすれば手数が延びるのに、解答では合駒をしていない。こうした疑問の多くは、詰将棋の細かい約束事で説明できます。
基本のルール(攻め方は毎回王手、玉方は残りの駒をすべて持つ、打ち歩詰めは反則など)は 詰将棋の始め方 に書きました。この記事では、その先の、解答の読み方に関わる約束を書きます。用語の定義は主に Wikipedia「詰将棋」 によります。局面は私が作ったもので、どれも手順を確かめてあります。
玉方は最長、攻め方は最短
詰将棋では、玉方は最善、つまりいちばん長く逃れる手順を選んで王手を避けます。一方、攻め方は、詰ませられる手順のうち最短のものを選ぶのが約束です。
この二つを組み合わせると、正解手順は「玉方が最も粘っても、攻め方が最短で詰ませる手順」になります。解答の玉方の応手が、自分の考えた応手と違うときは、たいてい玉方がより長く粘れる手を選んでいるからです。逆に、自分の手順で玉方の応手がすぐに詰む手ばかりなら、玉方の最善を見落としている可能性があります。
無駄合い:数えない合駒
飛車や角、香で離れたところから王手をかけると、玉方は間に駒を打って防ぐことができます。これが合駒です。ただ、ただ取られるだけで手順の本質が変わらない合駒は「無駄合い」と呼ばれ、手数に数えません。
局面1: 玉方の玉が1一。攻め方の銀が3二、金が2三。持ち駒は角。
正解は ▲2二角 です。金のひもが付いた角で王手をかけ、玉は1二にも2一にも逃げられず、角も取れません。1手詰です。
では、角を ▲5五角 と遠くから打ったらどうでしょう。玉方は4四、3三、2二のどこかに合駒ができます。けれど、どの合駒も角で取られるだけで、取ったあとはまた同じ形の王手が続きます。こうした合駒は、詰むかどうかに何の影響もありません。これが無駄合いです。
無駄合いを数えないのは、数えると手数がいくらでも延ばせてしまうからだと私は理解しています。もうひとつの理由は持ち駒です。合駒を取り続けて最後に詰ませると、取った駒が攻め方の持ち駒に残ります。この「駒が余る」状態は、次に書くとおり詰将棋では避けるべきものなので、無駄合いを手順に入れると、解答として不自然な形になります。
無駄合いにならない合駒
合駒がいつも無駄とは限りません。合駒で詰みが消えたり、手順が変わったりするなら、それは有効な合駒です。
局面2: 玉方の玉が1一。攻め方の金が3二。持ち駒は飛車。
金が2一と2二に利いているので、▲1九飛 と下から打てば、玉は1二に逃げられないように見えます。ところが玉方は、玉のすぐ前の1二に合駒をします。▲同飛と取っても、その飛車には何のひもも付いていないので、△同玉で取られます。この1二の合駒は、詰みを消しているので無駄合いではありません。1三から1八への合駒が無駄合いでも、1二の合駒ひとつで、この王手は失敗になります。
この局面の正解は ▲2一飛 です。金のひもが付いているので玉は取れず、△1二玉 と逃げるしかありません。そこで ▲2二飛成 と龍になれば、金のひもが付いた龍で詰みです。3手詰です。
遠くからの王手を考えるときは、玉に接したマスへの合駒が効かないかを、まず確かめるとよいと思います。
持ち駒余り
詰み上がったときに、攻め方の持ち駒が残っていることを「駒余り」と言います。Wikipedia によれば、作意手順(作者が想定した正解手順)で駒が余る作品は、初期の古典では問題にされなかったものの、現在は不完全作として扱われます。変化手順にだけ駒余りがあるのは構いません。
もうひとつ関係するのが、玉方の応手の選び方です。玉方は最長の手順を選びますが、同じ手数になる応手が複数あるときは、攻め方に持ち駒を使い切らせる応手を選ぶ、と考えるのが普通です。
解く側から見ると、駒余りは便利な点検の道具になります。自分の手順で詰んだのに持ち駒が残っていたら、玉方がもっとよい応手を持っていたか、自分の初手が作意と違うかのどちらかを疑います。よくできた問題では、どの持ち駒にも役目があるからです。
余詰と早詰
作意手順とは別の詰め手順が成立することを「余詰」と言います。作意より短い余詰は、特に「早詰」と呼ばれることがあります。最終手以外に余詰がある作品は不完全作とされます。最後の1手だけで別の詰め方がある「最終手余詰」は、不完全作とまではされません。
5手詰の問題を3手で詰ませたように見えたら、まず玉方の応手を見直すのがよいと思います。たいていは、玉方にもっと長く逃れる手があります。それでも本当に3手で詰むなら、その問題が早詰の不完全作だということになります。
変同と変長
玉方が作意以外の応手をしたときの手順を「変化」と言います。
変同(変化同手数): 変化のうち、作意と同じ手数で詰むものです。その変化で持ち駒が余るなら、玉方はそちらを選ばないので問題になりません。持ち駒が余らない変同は、どちらが正解か決められなくなるので、作品の傷とされます。ただし、最後の2手の変同は問題ないとされています。
変長(変化長手数): 変化のうち、作意より長い手数になるものです。
解答を見て「この応手のほうが長く粘れるのでは」と思ったら、それは変長の可能性があります。
実戦との違い
こうした約束は、作品としての詰将棋を、答えがひとつに決まるパズルにするためのものだと私は考えています。実戦では、早く詰ませられれば駒が余ってもまったく構いませんし、無駄に見える合駒で時間を稼ぐことも普通にあります。詰将棋の約束が実戦のルールではないことは、頭の片隅に置いておくとよいと思います。
なお、攻め方の打ち歩詰めや千日手は、詰将棋では失敗になります。
細かいルールを盤が守るアプリ
Shogi365 は、3手詰・5手詰・7手詰・9手詰を各1000問収録した詰将棋のアプリです。王手なら正解でも不正解でも指せて、玉方は最も長く粘る応手を自動で返します。玉方は残り駒全部を合駒に使えます。
アプリの中では、合駒とそれを取る手も実際の手数として数えています。そのかわり、攻め方がすぐ取り返すだけの無駄合いが手順に入る問題は収録していません。だから、画面に表示された手数どおりに詰みます。どの問題も初手は一つに決まり、攻め方の盤上の駒と持ち駒にも、玉方の駒にも無駄がありません。
基本の手筋は 詰将棋の基本手筋 に、詰将棋が実戦にどう効くかは 詰将棋で将棋は強くなるのか に書きました。
