英語多読は英検やTOEICの役に立つか

TOEIC Listening & Reading Test のリーディングは、75分で100問です。IIBC の公式ページによると、そのうち Part 7 は、1つの文書を読む問題が29問、複数の文書を読む問題が25問で、あわせて54問あります。英検2級の一次試験は、日本英語検定協会のページによると、リーディングとライティングをあわせて85分です。
どちらの試験も、限られた時間で、かなりの量の英文を読みます。試験が近づくと、本を読む時間を問題集に回したほうがよいのではないか、と迷う方も多いと思います。この記事では、多読について研究で分かっていることを確かめたうえで、試験のどこに効き、どこが足りないかを整理します。
研究で分かっていること
多読の効果を調べた研究をまとめたものに、Nakanishi のメタ分析(TESOL Quarterly、2015年)があります。34の研究、のべ3,942人分の結果をまとめ、多読をした学習者の読む力には、しなかった学習者と比べて中程度の効果(d = 0.46)があった、と報告しています。同じ学習者の前後を比べた研究では、効果はもう少し大きく(d = 0.71)なっていました。
読む速さについては、Beglar、Hunt、Kite の研究(Language Learning、2012年)が参考になります。日本の大学1年生97人を1年間追い、精読の授業を受けたグループと、楽しみのための多読をした三つのグループで、読む速さの伸びを比べたものです。多読のグループはどれも精読のグループより伸び、たくさん読んだグループほど伸びが大きくなりました。多くの学習者にとっては、2週間に1冊以上読むのがいちばん効果的だったと書かれています。読む速さが上がっても、内容の理解度は下がっていませんでした。また、書き直されていない原書より、学習者向けにやさしく書き直された本を読んだほうが、速さの伸びは大きかった、とも報告しています。
研究の数字は、試験の点数そのものを測ったものではありません。ただ、読む力と読む速さが伸びることは、かなりはっきりしていると言ってよいと思います。
試験のどこに効くか
私は、多読がいちばん効くのは、長文を時間内に読み切る力だと考えています。TOEIC の Part 7 は54問で、リーディングの半分以上を占めます。一文ずつ訳さなくても意味がとれる速さは、問題集を解くだけではなかなか身につきません。
次に、語彙です。多読で出会う語は、文の中で、何度も繰り返し出てきます。単語帳で覚えた語に本の中で出会うと、使われ方ごと覚え直すことになります。語彙と読書の関係については、洋書を読むには英単語がいくつ必要かに書きました。
文法も、ある程度は効くと思います。たくさん読むと、正しい形を見慣れるので、穴埋めの問題で「この形は見たことがない」と感じられるようになります。ただ、細かい文法の区別まで多読だけで身につくとは、私は考えていません。
リスニングへの効き方は、間接的です。英語を語順のまま理解する速さは、聞くときにも役に立ちます。ですが、音を聞き取る練習の代わりにはなりません。
多読だけでは足りないところ
**試験の形式。**設問の型、時間配分、マークシートの使い方は、試験の問題を解かないと慣れません。TOEIC は出題形式が毎回同じなので、形式に慣れることの効き目は大きいと思います。
**書くことと話すこと。**英検にはライティングと、二次試験の面接があります。読む量が増えれば書ける表現も増えますが、自分で書いて、話してみる練習は別に必要です。
**語彙の種類。**物語で出会う語と、TOEIC に出てくる仕事の場面の語は、かなり違います。19世紀の小説を何冊読んでも、請求書や会議の連絡の言い回しには、あまり出会いません。
**正確さ。**多読では、分からないところを飛ばして読み進めます。それが多読のよいところですが、試験では一語の違いで答えが変わる問題もあります。
試験までの時間の分け方
ここからは私の考えです。
試験まで数か月あるなら、多読を中心にして、形式の練習は週に一、二回で足りると思います。読む速さは、短い期間では伸びにくいからです。上の研究でも、伸びを見たのは1年間でした。
試験の1か月前くらいからは、問題を解く時間を増やします。それでも多読はゼロにせず、1日15分でも続けるのがよいと考えています。問題集の英文は、細かく切られた短いものが多く、まとまった量を読む感覚が鈍りやすいからです。
試験の直前の数日は、新しい本を始めるより、形式の確認に時間を使います。点数のための準備と、英語を読めるようになるための読書は、どちらか一つを選ぶものではなく、時期によって比重を変えるものだと思います。
ABC George で読む
私が作っている iPhone・iPad 用の無料の多読アプリ ABC George は、Project Gutenberg の61,000冊以上の英語の本の目録をアプリに入れたものです。本を探す画面の「Start here」には、学習者向けに選んだ短く平易な30編が並んでいます。本文は端末にダウンロードするので、通勤や通学の電車でも通信なしで読めます。
読みながら単語を長押しして「Look up」を押すと、やさしい英語の定義と WordNet の語義が出ます。調べた単語は、出会った文と一緒に単語帳に残り、あとで穴埋めや綴りのクイズになって戻ってきます。単語帳には NGSL と NAWL の単語リストも入っています。NAWL は学術的な文章によく出る語のリストです。
ただ、ABC George の本は Project Gutenberg の古典なので、TOEIC に出てくるような仕事の場面の英語は、ほとんど入っていません。試験の形式に慣れる練習は、公式の問題集で行ってください。ケンブリッジ英検を受ける方には、試験の準備のためのアプリ AlphaGeorge も作っています。
多読用の本から原書へ移る目安はグレイデッド・リーダーから原書へ移るタイミングに、多読の進め方は英語多読のやり方に書きました。
