英語多読のやり方:辞書を引くか、どこまで読むか

非営利団体の Extensive Reading Foundation(多読財団)が公開している多読の手引きは、多読を「とてもやさしく、楽しめる本を読んで、読む速さと流暢さを育てること」と説明しています。目安の速さは1分あたり150〜200語、初心者はそれより少し遅くてもよい、とあります。そして、そのためには辞書がいらないくらい、本がやさしくなければならない、と書いています。
定義としてはこれで足ります。ただ、実際に始めようとすると、すぐに具体的な迷いが出てきます。知らない単語が出てきたら引いてはいけないのか。どのくらいの本を選べばいいのか。つまらない本は最後まで読むべきか。1日にどれだけ読めばいいのか。この記事では、この4つを順に考えます。
多読と精読は、別の練習です
最初に分けておきたいのは、同じ英文を読む作業でも、目的が二つあるということです。
ひとつは、知らない語や構文を一つずつ確かめながら、文章を正確に理解する読み方です。学校の英語の授業や受験勉強で多くの人が慣れているのは、こちらだと思います。精読と呼ばれます。
もうひとつが多読です。こちらは英語を英語のまま、止まらずに読む力を育てる練習で、新しい語を覚えることは主な目的ではありません。多読財団の手引きは、この二つを本の難しさで区別しています。ページの単語の90〜98%を知っている本は「学習用」の水準で、理解はできるけれど、よく分かろうとすれば多くの語を引くことになる。98%以上を知っている本が多読の「ちょうどいいところ」で、楽しく速く読める。90%を下回ると、読むのがつらく遅くなり、理解も大きく落ちる、としています。
どちらの読み方にも意味があります。問題になるのは、二つが混ざることです。精読の水準の本を多読のつもりで読むと、辞書を引くたびに話が途切れ、数ページで疲れてしまいます。逆に、多読の水準の本でいちいち単語を引けば、せっかくの速く読む練習になりません。
辞書を引くかどうか
日本で多読を始めた人の多くは、「多読三原則」という言葉に出会うと思います。酒井邦秀さんの著書などで広まった考え方で、たとえば静岡市立図書館の案内では次のように紹介されています。
- 辞書は引かない
- わからないところは飛ばす
- つまらなくなったら次の本に移る
一つめは強い言い方に聞こえますが、多読財団の手引きも同じ方向のことを書いています。流暢さを育てるための読書では、やさしく楽しめる本を読むべきで、単語を引く回数が多すぎるなら、その本はおそらく難しすぎるので、もっとやさしい本を読むべきだ、という答えです。つまり「辞書を引かない」は、辞書を禁じる規則というより、辞書がいらない本を選びなさいという意味に読めます。
私はこの読み方がいちばん実用的だと考えています。引きたくなる回数そのものが、本の難しさを教えてくれる目盛りになるからです。1ページに何度も手が止まるなら、その本は今の自分には精読の教材であって、多読の本ではありません。それなら、本を替えるか、その本は精読用と割り切って辞書を引きながら読むか、どちらかを選べばいいと思います。どちらも間違いではありません。
なお、98%という数字には研究上の議論があります。もとになった Hu と Nation(2000年)の研究は、知っている語の割合を変えた文章で理解度を調べたものです。その後、Schmitt、Jiang、Grabe の2011年の研究は、8か国661人を対象に調べ、知っている語の割合と理解度はほぼ直線的に関係していて、ある割合を超えると急に分かるようになる「境目」は見られなかったと報告しています。98%は便利な目安ですが、それを1%下回ったら読めなくなるわけではありません。
本の難しさを、最初の1ページで確かめる
98%というのは、50語に1語くらい知らない語がある状態です。90%なら10語に1語です。数字だけだと実感がわきにくいので、私は次のように確かめるのがよいと思います。
本の最初のページを、辞書を引かずに読んでみます。知らない語に出会うたびに指を1本折ります。数行ごとに指が折れていくようなら、その本は多読には難しすぎます。1ページで1本か2本で、話の筋が追えているなら、多読に向いた水準です。
このとき大事なのは、知らない語の数よりも、話が分かっているかどうかです。知らない語が少しあっても、誰が何をしているか分かれば読み進められますし、多読ではそれで十分です。
多読用の本から原書へ
多読財団の手引きは、英語を母語とする読者のために書かれた本(いわゆる原書)は、多くの学習者にとって難しく、それを大きな苦労なく読めるようになるまでは、多読用に語彙を調整したグレイデッド・リーダーを使うべきだ、としています。英語圏のこどもは、本を読み始める前にすでに何千もの語と文法の大部分を知っているからです。
ですから、最初の数冊は学習者向けのやさしいシリーズから始めるのが順当だと思います。原書に移るときは、筋を知っている話や、寓話や童話のような短い作品から入ると、段差が小さくなります。そうした作品の例は、英語多読におすすめの無料洋書30冊にまとめてあります。
どこまで読むか
一冊をどこでやめるかについては、三原則の三つめがそのまま答えになります。つまらなくなったら、次の本に移る。多読の目的は読む量を増やすことなので、気の進まない本に何日も止まっているより、別の本を読んだほうが量は増えます。途中でやめた本は、半年後に開くと驚くほど読めることもあります。
一日の量については、多読財団の手引きが、学校ではおよそ週に1冊以上を求めることが多いと書いています。授業で始める場合は、最初は週20分ほどの短い時間から始め、少しずつ増やして、週1冊に近づけていく、という進め方も紹介しています。
1分150語で計算すると、20分で3,000語ほどになります。ビアトリクス・ポターの「ピーターラビットのおはなし」は約1,000語なので数分で読めますし、「オズの魔法使い」の約40,000語は、同じ速さで4時間半ほどです。毎日20分なら、2週間ほどで読み終える長さです。日本の多読では「100万語」を目標に掲げる本もありますが、まずは毎日少しずつ続けられる時間を決めるほうが、私は大事だと思います。
辞書を引く読書と、引かない読書を分けるなら
私が作っている iPhone・iPad 用の無料の多読アプリ ABC George は、Project Gutenberg の英語の本をアプリの中で一冊まるごと読めるようにしたものです。辞書が最初から入っていて、単語を長押しして「Look up」を押すと、やさしい英語の定義と WordNet の語義がページの上に出ます。
この記事の話につなげると、二つの使い分けができます。精読として読む本では、調べた単語が出会った文ごと単語帳に保存され、あとでクイズとして戻ってきます。次に出るまでの間隔は、正解するたびに長くなるライトナー方式で決めています。一方、多読として読む本では、設定の「Save every lookup」をオフにすると、引いた単語を保存せずに読めます。引く回数が多いと感じたら、それは本を替える合図だと考えてください。
棚の「Start here」には、短く平易な名作を30編入れてあります。広告もアカウント登録もなく、本をダウンロードしたあとは通信なしで読めます。ほかの読み方との違いはABC George と他の読み方の比較に、最初の一冊までの手順はABC George の始め方に書きました。
どの方法で読むにしても、辞書がほとんどいらない本を一冊、最後まで読むところから始めるのがよいと思います。
