シャーロック・ホームズを原文で読む:どの短編から始めるか

シャーロック・ホームズが初めて登場したのは、1887年の長編「緋色の研究」(A Study in Scarlet)です。そこから1927年の短編集「シャーロック・ホームズの事件簿」(The Case-Book of Sherlock Holmes)まで、コナン・ドイルはホームズの話を長編4作と短編56編書きました。どれも Project Gutenberg で無料で読めます。
ホームズは、英語の原文で読んでみたい本としてよく名前が挙がります。話は面白く、一編ごとに事件が完結するので、多読に向いていると私は思います。ただ、書かれたのは100年以上前で、どこから入るかで読みやすさがかなり変わります。この記事では、最初の一編の選び方と、読むときに引っかかりやすいところを書きます。
長編より短編から
ホームズの長編は4作あります。Project Gutenberg のテキストで本文の語数を数えてみると、「緋色の研究」と「四つの署名」(The Sign of the Four)がそれぞれ約43,000語、「バスカヴィル家の犬」(The Hound of the Baskervilles)と「恐怖の谷」(The Valley of Fear)がそれぞれ約59,000語と約58,000語でした。
私は、最初は長編ではなく短編から入るのがよいと考えています。理由は長さだけではありません。「緋色の研究」は、第二部に入ると舞台がいきなりアメリカのユタに移り、ホームズもワトソンも出てこない過去の話がしばらく続きます。「四つの署名」も、終わり近くで犯人の長い身の上話になります。初めて読む人は、ここで話の筋を見失いやすいと思います。
短編は一編がおよそ7,000語から10,000語で、一晩か二晩で読めます。一編読み終えると一つの事件が解決するので、読み切ったという手応えが早く得られます。
最初の一編は「赤毛組合」
私が最初に勧めるのは、短編集「シャーロック・ホームズの冒険」(The Adventures of Sherlock Holmes)の2編目、「赤毛組合」(The Red-Headed League)です。約9,100語あります。
勧める理由は、話の形がはっきりしていることです。赤い髪の質屋の主人がホームズのところに相談に来て、奇妙な仕事の話を長々と語ります。ホームズはそれを聞いて調べに出かけ、最後に種明かしをします。依頼人の話、調査、解決という、ホームズの短編の基本の形がそのまま入っています。相談の中身が奇妙なので、先を知りたくて読み進められます。
ドイル自身も、この話を高く評価していました。1927年に雑誌 Strand Magazine で、ホームズの短編から自分の好きな12編を選んだとき、「赤毛組合」は2番目でした。1番目は「まだらの紐」(The Adventure of the Speckled Band)です(Arthur Conan Doyle Encyclopediaによる)。「まだらの紐」は約9,800語で、同じ短編集の8編目に入っています。2編目として読むのに向いていると思います。
もっと短いものから始めたい場合は、同じ短編集の「青いガーネット」(The Adventure of the Blue Carbuncle)も候補です。約7,800語で、クリスマスの時期の、一羽のガチョウから始まる話です。
短編集の1編目から読まない
「シャーロック・ホームズの冒険」を開くと、最初に入っているのは「ボヘミアの醜聞」(A Scandal in Bohemia)です。順番どおりにここから読み始める方が多いと思いますが、私はあまり勧めません。
この話の書き出しは「To Sherlock Holmes she is always the woman.」という有名な一文です。ところが、その後に続く段落は、ホームズがどんな人物かをワトソンが抽象的な語で説明する文章で、eclipses、predominates、abhorrent といった語が並びます。短編集のいちばん最初が、いちばん重い段落の一つなのです。ここで止まってしまうのは、もったいないと思います。短編集の短編はどれも独立しているので、順番に読む必要はありません。
ホームズの英語でつまずきやすいところ
**ワトソンの語り。**ホームズの話は、ほとんどがワトソンの一人称で書かれています。ワトソンの地の文は一文が長く、19世紀の書き言葉らしい丁寧な言い回しが続きます。会話の部分のほうが、文は短く読みやすいです。地の文で分からない文があっても、次の会話で何が起きているかが分かることが多いので、止まらずに先へ進むのがよいと思います。
今とは違う意味で使われる語。「赤毛組合」の冒頭で、ワトソンは「I was afraid that you were engaged.」と言います。この engaged は婚約ではなく「手がふさがっている」という意味です。また、ホームズの話には「ejaculated」という語が何度も出てきますが、これは「思わず叫んだ」という意味の、当時ふつうに使われた言い方です。辞書を引いて意外な意味が出てきたら、古い使い方を疑ってみるとよいと思います。
**お金と暮らしの語。**ポンド、シリング、ギニーといった当時のお金の単位や、馬車、電報など、今は見かけないものがよく出てきます。正確な金額や仕組みが分からなくても、「高い」「安い」が分かれば筋は追えます。
**ホームズの推理の説明。**話の終わりにホームズが謎を解く場面は、細かい手がかりを一つずつ説明していくので、語彙が急に増えます。ここは一度読んで分からなくても、結末だけ分かれば十分だと私は考えています。読み返すのは、話を楽しんだあとでかまいません。
Project Gutenberg で探すときの注意
Project Gutenberg では、ホームズの短編の多くは、短編集の一冊として収められています。「赤毛組合」も「まだらの紐」も、The Adventures of Sherlock Holmes の中です。短編の題名で検索しても、出てくるのは短編集や、ほかの作家の作品と一緒に入ったアンソロジーであることが多いので、まず短編集の題名で探すのが早いと思います。いくつかの短編は単独の本としても登録されていますが、全部ではありません。
短編集の題名は、発表順に次の5冊です。
- The Adventures of Sherlock Holmes(1892年)
- The Memoirs of Sherlock Holmes(1894年)
- The Return of Sherlock Holmes(1905年)
- His Last Bow(1917年)
- The Case-Book of Sherlock Holmes(1927年)
長編の「四つの署名」は、Project Gutenberg では「The Sign of the Four」という題名で登録されています。「The Sign of Four」という題名で呼ばれることも多いので、両方を覚えておくとよいと思います。また、最後の短編集の「The Case-Book of Sherlock Holmes」は、2023年1月に登録されました。米国でのパブリックドメイン入りに合わせたもので、Project Gutenberg と著作権の関係はProject Gutenberg とはに書きました。
ABC George でホームズを読む
私が作っている iPhone・iPad 用の無料の多読アプリ ABC George は、Project Gutenberg の英語の本の目録をアプリに入れたものです。ホームズの長編4作と短編集5冊は、どれも目録に入っていて、本を探す画面の「Detective」の棚にも並んでいます。検索は題名と著者で、通信なしで動きます。短編の題名ではなく、「Sherlock」や「Doyle」で探してください。
本は章ごとに分かれているので、短編集を開いたら、読書画面の「Chapters」から読みたい短編を選べます。読みながら単語を長押しして「Look up」を押すと、やさしい英語の定義と WordNet の語義が出ます。engaged のように意味がいくつもある語は、語義の一覧から文に合うものを探してください。
広告もアカウント登録もなく、本をダウンロードしたあとはオフラインで読めます。ホームズのあとに読む本は英語多読におすすめの無料洋書30冊に、自分の語彙でどのくらい読めるかの目安は洋書を読むには英単語がいくつ必要かに書きました。
