グレイデッド・リーダーから原書へ移るタイミング

Oxford Bookworms Library のいちばん上の Stage 6 は、見出し語2,500語で書かれています。一方、語彙研究の Paul Nation は、英語の小説を辞書なしで十分に理解するには8,000から9,000のワードファミリーが要る、という目安を示しました。数え方が違うので単純には比べられませんが、多読用の本の最上段と原書のあいだには、まだかなりの段差があるということです。
この記事は、グレイデッド・リーダーを何冊も読んできて、そろそろ原書を読みたいと思っている方に向けて書きました。いつ移るか、何から読むか、移ったあとどうするかを考えます。
グレイデッド・リーダーの良さと限界
多読財団(Extensive Reading Foundation)の手引きは、グレイデッド・リーダーを、学習者が速く楽に読めるように筋・語彙・文法を段階ごとに管理した本だと説明しています。原書には一度か二度しか出てこない語がたくさんあるのに対して、グレイデッド・リーダーはめったに使わない語を除き、役に立つ語が何度も出てくるように作られている、とも書いています。そして、グレイデッド・リーダーは「いずれ原書を読むための橋」だとしています。
私は、この「橋」という言い方がいちばん正確だと思います。グレイデッド・リーダーの良さは、知らない語に止められずに、英語を英語のまま読み続けられることです。読む量を増やすには、これ以上の教材はありません。
限界も、同じところから来ます。語彙と文が管理されているので、原書に特有のものには出会いにくいのです。めったに出てこない語、一文の長い地の文、書き手ごとの癖のある文体。名作の書き直し版では、筋は残っても、元の文の調子はほとんど消えています。橋の上をいくら歩いても、向こう岸の地面には立てません。
移ってよいと考える目安
私は、次の三つがそろったら、原書を一冊試してよいと考えています。
**一つめは、上の段階を楽に読めること。**多読財団の手引きは、多読では少なくとも1分に150語から200語で読むことを目安にしています。グレイデッド・リーダーの上のほうの段階を、この速さで、内容をほとんど分かって読めているなら、橋の終わりは近いと思います。
**二つめは、原書の最初のページで確かめること。**読んでみたい原書の1ページ目を、辞書を引かずに読みます。知らない語が1ページに1つか2つで、話の筋が追えるなら、多読として読めます。数行ごとに知らない語が出てくるなら、その本はもう少し先です。私はこの確かめ方が、どんな試験のスコアよりも当てになると思っています。やり方の細かいところは英語多読のやり方に書きました。
**三つめは、グレイデッド・リーダーが物足りなくなったこと。**書き直し版を読んで「元の文で読んでみたい」と感じたなら、それは移る理由として十分です。読みたい気持ちは、多読を続けるうえでいちばん強い力だと思います。
三つめだけがあって、一つめと二つめがまだ、という場合もあると思います。そのときは、次に書く「並行して読む」やり方が向いています。
最初の原書の選び方
最初の原書は、段差が小さいものを選ぶのがよいと思います。私が勧めるのは次のような本です。
**短い本。**語数の少ない本なら、知らない語が多くても読み切れます。ビアトリクス・ポターの「ピーターラビットのおはなし」は約1,000語、「オズの魔法使い」は約4万語です。
**短編集。**シャーロック・ホームズの短編は一編がおよそ7,000語から10,000語で、一つ読めば一つの事件が終わります。どこから入るかはシャーロック・ホームズを原文で読むに書きました。
**筋を知っている話。**グレイデッド・リーダーで読んだ作品の原書は、筋を知っている分、知らない語があっても迷いにくいと思います。ただし、書き直し版と原書とでは長さがまったく違うことが多いので、そこは覚悟しておくとよいと思います。
反対に、方言で書かれた会話が多い本や、言葉遊びが笑いの中心になっている本は、最初の一冊には向きません。名作であることと、最初の一冊に向いていることは別です。原書の難しさを決めるものについては、レベル別の洋書の選び方にまとめました。
並行して読むやり方
原書に移ったからといって、グレイデッド・リーダーをやめる必要はないと私は考えています。
多読財団の手引きには、興味深い一文があります。速く楽に読めるものなら何を読んでもよい、としたうえで、研究では、グレイデッド・リーダーだけを読んだほうが、グレイデッド・リーダーと書き直されていない文章の両方を読むよりも、読む速さの伸びが大きかった、と書いているのです。
私はこれを、原書を読むなという意味ではなく、読む量の中心はやさしい本に置いておけ、という意味に受け取っています。読む力そのものを伸ばすのは、楽に読める大量の英語です。原書は、少しずつ足していく挑戦の一冊です。たとえば、毎日の読書の大部分はグレイデッド・リーダーにして、原書は1日に1章だけ、というやり方です。原書の割合は、読めるようになるにつれて増やしていけばよいと思います。
原書で行き詰まったら、グレイデッド・リーダーに戻ってかまいません。戻ることは後退ではなく、橋の上でもう少し足を慣らすことだと思います。
英語の試験との関係
英検や TOEIC のスコアで原書に移る時期を決めたい方もいると思います。ただ、試験のスコアは試験の問題を解く力を測ったもので、一冊の本を楽しく読み切れるかどうかは、本の長さや題材、文体にも左右されます。私は、スコアは目安にとどめて、最後は1ページ目で決めるのがよいと考えています。
ABC George で最初の原書を読む
私が作っている iPhone・iPad 用の無料の多読アプリ ABC George は、Project Gutenberg の英語の本の目録をアプリに入れたものです。グレイデッド・リーダーは入っていないので、この記事でいう原書の段階で使うアプリです。
本を探す画面の「Start here」の棚には、学習者向けに選んだ短く平易な名作30編が並んでいます。「Children」「Fairy tales」「Short stories」「Detective」などの棚もあり、上で書いた短い本や短編集はここから選べます。読みながら単語を長押しして「Look up」を押すと、やさしい英語の定義と WordNet の語義が出ます。調べた単語は出会った文と一緒に単語帳に残り、あとでクイズで復習できます。
1ページに何度も引くようなら、それは本を替える合図だと考えてください。広告もアカウント登録もなく、本をダウンロードしたあとはオフラインで読めます。原書を読むのに必要な語彙の目安は、洋書を読むには英単語がいくつ必要かに書きました。
