詰将棋の基本手筋:頭金から焦点の捨て駒まで

詰将棋の3手詰は、王手、玉方の応手、詰みの3手でできています。手順は短いのですが、正解の初手は、駒をただで渡すように見える手であることがよくあります。この「捨て駒」が見えるかどうかで、3手詰の解きやすさは大きく変わります。
捨て駒にはいくつかの決まった型があり、将棋ではこうした型を「手筋」と呼びます。毎回手探りで王手を試している方は、型を名前で知っておくと、候補手を絞る順番がはっきりすると思います。この記事では、最初に覚えておきたい基本の手筋を、私が作った駒の少ない局面で説明します。ルールや読み方の基本は 詰将棋の始め方 に書いたので、ここでは手筋そのものに絞ります。
局面は文字で書きます。攻め方(解く側)の駒には何も付けず、玉方の駒には「玉方」と書きます。詰将棋の約束どおり、盤上と攻め方の持ち駒以外の駒は、すべて玉方が持っているものとします。どの局面も、Shogi365 と同じ詰み探索のプログラムで、3手で詰むこと、初手が一つしかないことを確かめてあります。
頭金:すべての手筋の行き先
手筋の話は、詰みの形から始めるのが分かりやすいと思います。いちばん基本になるのが「頭金」です。玉のすぐ前、つまり玉の頭に金を打ち、その金に別の駒の利きを付けておく形です。
金は前と横と斜め前に動けるので、玉の頭に打つと、玉の左右の2マスと、玉から見て斜め前の2マスをまとめて押さえます。玉が下段(1段目)にいれば、後ろに逃げるマスはありません。金にひもが付いていれば、玉は金を取れません。これで詰みです。
この形を覚えておくと、3手詰の多くが「どうやって頭金の形を作るか」という問題に見えてきます。以下の手筋は、どれもこの最後の形に玉を連れてくるための手段だと考えると、整理しやすくなります。
玉を下段に落とす捨て駒
局面: 玉方の玉が1二。攻め方の銀が3三。持ち駒は角と金。
まず思いつくのは、すぐに ▲2二金と打つ手です。銀が2二に利いているので、玉は金を取れません。ところが玉には1三へ逃げる道があり、そこから上へ逃げられてしまいます。
正解は ▲2一角です。角を玉の斜め上、下段のマスに打って王手をかけます。△同玉と取れば、玉は下段の2一に来ます。そこで ▲2二金と打てば、銀のひもが付いた頭金で詰みです。角を取らずに △1一玉や △2三玉、△1三玉と逃げても、金を打って詰みます。
強い駒である角を、ただで取らせるのが初手です。ここで覚えておきたいのは、角そのものではなく、捨て駒の目的です。玉を取らせることで、玉を逃げ道の少ない下段へ引きずり下ろす。格言の「玉は下段に落とせ」を、そのまま一手で実行しているわけです。上に逃げ道がある玉を見たら、まず下段のマスに捨てる手がないかを探す、という順番が身につくと、この型の問題はかなり速く解けるようになります。
守りの駒をずらす捨て駒
局面: 玉方の玉が9一、玉方の銀が8一。攻め方の龍が7二。持ち駒は角と歩。
龍が7二にいて、角を持っています。▲8二角と打てば、龍のひもが付いた角で詰みそうに見えます。ところが、8一の銀が8二に利いているので、△同銀と取られます。銀で取らなくても、△9二玉と逃げる手もあります。龍の横の利きが、8二に打った角でさえぎられるからです。
正解は ▲9二歩です。玉の頭に歩を打って王手をかけます。龍の横の利きが9二まで通っているので、玉は歩を取れません。取れるのは8一の銀だけで、△同銀となります。
この一手で、二つのことが同時に起きています。銀が8一から9二へ動いたので、8二を守る駒がいなくなりました。そして9二は銀でふさがり、玉は自分の駒で逃げ道を失いました。そこで ▲8二角と打てば詰みです。空いた8一には龍の斜めの利きがあり、玉はどこにも動けません。
邪魔な守りの駒に、わざと駒を取らせて場所を変えさせる。その駒が玉の逃げ道に入って、自分の玉を囲んでしまう。この二つは、詰将棋でとてもよく出てくる捨て駒の目的です。歩が初手になるのは、いちばん安い駒で同じ仕事ができるからでもあります。なお、歩を打って王手をかけること自体は反則ではありません。反則になるのは、歩を打った手で玉が詰んでしまう「打ち歩詰め」の場合だけで、ここでは銀で取る手があるので問題ありません。
焦点の捨て駒
「焦点」は、将棋では駒が二つ以上利いている地点のことを言います。精選版 日本国語大辞典にもこの意味が載っていて、そこに打つ歩を「焦点の歩」と呼び、好手になることが多いと説明されています。
二つの駒が同じマスを守っているとき、そのマスに駒を捨てると、どちらかの駒が取ることになります。取った駒は、それまでの持ち場を離れます。守っていた二つの駒は、それぞれ別の仕事も持っていることが多いので、どちらが取っても、どこかに穴が開きます。
局面: 玉方の玉が5一、玉方の銀が4一と6一。攻め方の金が5三。持ち駒は金と歩。
玉の頭の5二には、4一の銀と6一の銀の両方が利いています。▲5二金と頭金を打っても、銀で取られてしまいます。
正解は ▲5二歩です。5二は、二つの銀が利いている焦点です。5三の金が歩にひもを付けているので、玉は取れません。銀のどちらかが取るしかありません。
6一の銀で △同銀と取れば、6一が空きます。そこで ▲6二金と打てば、王手をかけながら空いた6一を押さえます。6二の金には5三の金のひもが付いていて取れず、4二も5三の金が押さえているので詰みです。4一の銀で取れば、左右を入れ替えた形で ▲4二金と打って詰みます。どちらで取っても、取った銀が空けた側から金を打てばよいわけです。
金はとどめに残す
焦点の局面で、初手に ▲5二金と金のほうを打つとどうなるでしょうか。銀で取られたあと、持ち駒は歩しか残りません。歩では詰ませられないので、失敗です。
ここに、もうひとつの手筋が隠れています。将棋には「金はとどめに残せ」という格言があります。最後の頭金や腹金に使える金は、できるだけ最後まで手元に置いておけ、という意味です。捨てるなら、歩や銀など、詰みの形を作るのに向かない駒から捨てる。最初の局面で角を捨てて金を残したのも、同じ考え方です。
持ち駒が複数あるときは、「どの駒で詰ませるか」を先に決めてから、「どの駒を捨てるか」を考えると、候補手の順番が自然に決まります。
手筋を名前で覚えるか、数を解くか
私は、両方が必要だと考えています。名前を知っていると、行き詰まったときに「下段に落とせないか」「守りの駒をずらせないか」「焦点はないか」と、順番に問いを立てられます。ただ、名前を知っているだけでは盤上で型が見えるようにはなりません。同じ型を何度も見て、見た瞬間に「あの形だ」と分かるようになるには、やはり数をこなすことが近道だと思います。
おすすめしたい順番は、この記事のような型を一度読んでおき、あとは3手詰をたくさん解くことです。解けなかった問題の解答を見たら、それがどの手筋だったかを言葉にしてみる。それだけで、次に同じ型が出たときの見え方が変わります。
毎日の3手詰で型を増やす
Shogi365 は、3手詰・5手詰・7手詰・9手詰を各1000問収録した詰将棋のアプリです。王手なら正解でも不正解でも指せて、玉方が自動で応じるので、捨て駒の読みが合っていたかどうかを盤上で確かめられます。手数以内に詰まなければ失敗で、3回までやり直せます。問題はすべてアプリ自前のソルバーで生成し、初手が唯一で、攻め方の駒にも玉方の駒にも無駄がないことを確かめています。解いたあとには「感想戦」で一手ずつ振り返れるので、どの手筋だったかを確かめるのにも使えます。
アプリの使い方のコツは Shogi365 の使い方のヒント に書きました。
