集中力が続かない大人の、1日10分の練習

2005年、カリフォルニア大学アーバイン校のグロリア・マークらは、情報を扱う仕事をする24人の働き方を細かく観察した研究を発表しました。仕事はひどく細切れで、ひとつのまとまった仕事に向かっている時間は短く、すぐ別の仕事に移っていました。そして、そのまとまりの57%は途中で中断されていました。
集中が続かないと感じるとき、私たちは自分の意志の弱さを責めがちです。けれども、この研究を見ると、集中が切れる理由の多くは、まわりの環境と働き方の側にもあるように思えます。
この記事では、集中が切れる主な原因について研究で分かっていることを整理し、そのうえで1日10分でできる練習を書きます。最初にお断りしておくと、集中できないことで仕事や生活に大きな支障が出ている場合は、練習を工夫するより先に医療機関に相談してください。
中断されると、速くはなるが疲れる
マークらは2008年に、作業の途中で中断が入ると何が起きるかを実験で調べました(論文)。意外なことに、中断された人のほうが作業を短い時間で終え、質も変わりませんでした。けれども、その代わりに、ストレス、いら立ち、時間に追われる感じ、使った労力が大きくなっていました。中断を取り戻そうとして急いで働き、その分の負担を払っている、という結果です。
通知が鳴るたびに手を止めても、その日の仕事はなんとか終わるかもしれません。ただ、一日の終わりにどっと疲れているなら、この負担のせいかもしれないと私は思います。
終わっていない仕事は、頭に残る
ソフィー・ルロイは2009年の論文で、ある仕事から別の仕事に移るときの注意の動きを調べました。前の仕事が終わっていないと、注意をそこから引き離すのが難しく、次の仕事の成績が下がることが示されました。ルロイはこれを「注意の残留(attention residue)」と呼んでいます。
メールの返信を途中にしたまま資料を作り始めると、頭の片すみでメールのことを考え続けてしまう。多くの人に覚えのある感覚だと思います。
睡眠不足は、自分では気づきにくい
ペンシルベニア大学の Van Dongen らが2003年に発表した実験では、21〜38歳の健康な大人48人の睡眠時間を、14日間続けて4時間、6時間、8時間に制限しました。1晩6時間以下の睡眠を続けた人は、注意などの課題の成績が日を追って下がり、最大で2晩まったく眠らなかったときと同じくらいまで落ちました。
この研究で大事だと思うのは、本人の眠気の感じ方は、成績ほどには悪くなっていなかったことです。論文は、参加者はこの衰えにほとんど気づいていなかったようだ、と書いています。集中できない日が続くとき、まず睡眠を疑ってみる価値はあると思います。
心は、思った以上にさまよう
ハーバード大学のキリングズワースとギルバートは、スマートフォンで一日のさまざまな時間に「いま何を考えているか」を尋ねる方法で、人の心のさまよいを調べました(2010年の論文)。人は、いま起きていないことを考えている時間が、いま起きていることを考えている時間とほとんど同じくらい多く、そしてそういうとき、たいてい幸せを感じていませんでした。
気がそれるのは、特別な欠点ではなく、心のふつうの性質だということです。そうであれば、大事なのは気がそれないことより、それたことに気づいて戻ることだと私は考えています。
スマートフォンを置く場所について
2017年に、自分のスマートフォンが机の上にあるだけで、使える認知の力が減るという研究が発表され、よく話題になりました。ただ、2022年に事前登録のうえで同じ実験を行った追試では、スマートフォンの置き場所による違いは見られませんでした。
ですから、「スマートフォンが見えるだけで集中力が落ちる」とは、いまのところ言い切れないと思います。それでも私は、集中したい時間はスマートフォンを別の部屋に置くのがよいと考えています。理由は単純で、手の届かないところにあれば、通知で中断されることも、つい手に取ることもないからです。
1日10分の練習
ここからは、上の研究をもとにした私の提案です。研究で効果が確かめられた手順ではありません。
最初の1分:準備する。 スマートフォンの通知を切るか、別の部屋に置きます。紙に、これから10分でやることをひとつだけ書きます。「企画書の見出しを決める」「洗濯物をたたむ」のように、目で見て終わりが分かることがよいと思います。
次の7分:ひとつのことだけをする。 タイマーをかけて、書いたことだけをします。気がそれたら、それに気づいた時点で、書いたことに戻ります。気がそれた回数を紙の端に線で数えておくのもよいと思います。回数を減らすことが目的ではなく、気づいて戻る動きを練習するためです。
最後の2分:区切りをつける。 終わったなら、終わったと書きます。終わらなかったなら、どこで止めたか、次に何をするかを一行で書きます。ルロイの研究のとおり、終わっていない仕事は頭に残ります。次の手を書いておくことで、残る分を少しでも軽くできると私は考えています。
10分にしたのは、始めるのが億劫にならない長さだからです。慣れてきたら、真ん中の時間を延ばしてかまいません。25分の作業と短い休憩をくり返す方法については、ポモドーロ・テクニックのやり方に書きました。
長く続く作業では、ときどき短く手を止めることも助けになるかもしれません。2011年の Ariga と Lleras の実験では、単調な見張りの課題を続けると成績が時間とともに下がりましたが、途中でときどき別のこと(覚えておいた数字を思い出すこと)をはさむと、その低下が防がれました。実験室の課題での結果ですが、ずっと同じ注意を保とうとするより、短い区切りを入れるほうが続く、という考え方には説得力があると思います。
練習の外でできること
10分の練習より効くかもしれないのは、毎日の環境のほうです。
- 睡眠時間を確保する。上の研究のとおり、足りていないことに自分では気づきにくいので、時間で決めておくのがよいと思います
- 通知の多いアプリは、通知そのものを切る
- 終わっていない仕事は、手を離す前に次の一手を書いておく
- メールやメッセージは、決まった時間にまとめて見る
脳トレについて
集中力を鍛えるために、アプリの脳トレを使う方法もあります。私が作っている BrainDojo もそのひとつです。
ただし、脳トレに効果はあるのかにも書いたとおり、練習した課題はうまくなっても、その伸びが仕事や家事の集中にまで広がるという、はっきりした根拠はありません。注意の課題を毎日続ければ、その課題の点数は上がるはずですが、それで会議中に気がそれなくなるとは言えません。
私は、脳トレは上の10分の練習の「準備の1分」のように使うのが合っていると思います。決まった時間に座って、短い課題にひとつずつ注意を向ける。その日課を、集中したい作業の前の切り替えとして使う、という考え方です。
BrainDojo について
BrainDojo は、短いミニゲームで毎日の脳トレを続けるための iPhone・iPad 向けのアプリです。アプリの中にも「本アプリは医療機器ではありません」と表示しています。集中力を高める、と約束することはしません。
最初の「BrainDojo 初回セットアップ」では、「いちばん困っていることは?」で「集中が続かない」を選べます。「1日にどれくらい使えますか?」は「3分」「5分」「10分以上」から選び、それに合わせて1日のトレーニングの数が2つ、3つ、5つになります。「いつトレーニングしますか?」で朝、昼、夜を選ぶと、それぞれ8時、12時半、21時にお知らせが届くように設定されます。どれもあとから設定で変えられます。
トレーニングは「計算力向上」「記憶力向上」「注意力向上」「手書きトレーニング」などのレーンに分かれていて、指での手書き、音声での音読、タップで答えます。無料プランでは、日替わりの「おためし」が1日2本と、1日1回の「脳実力チェック」、トレーニングした日にハンコを押すカレンダーが使えます。BrainDojo Plus では「今日のトレーニング」とすべてのトレーニングが使えます。どちらも広告はありません。
最初の使い方はBrainDojoの始め方で、記憶についての研究は記憶力を鍛える方法でご紹介しています。
