五十音なのにひらがなが46字なのはなぜか:や行とわ行の空いたマス

五十音表は、あ行からわ行までの10行と、あ段からお段までの5段でできています。10×5で50マス。それなのに、いまのひらがなの清音は46字です。
数えてみると、こうなります。あ行からら行までのうち、や行をのぞく8行は5字ずつで40字。や行は「や」「ゆ」「よ」の3字、わ行は「わ」「を」の2字。ここまでで45字です。そこに、どの行にも入らない「ん」を足して46字になります。
や行に2つ、わ行に3つ、空いたマスがあるわけです。こどもに「どうしてここは空いているの」と聞かれたとき、どう答えるか。この記事では、空いたマスの理由と、そこにかつてあった字のことを整理します。
や行の「い」と「え」
や行は、y の音に母音をつけた行です。「や」は ya、「ゆ」は yu、「よ」は yo。表の仕組みどおりなら、い段には yi、え段には ye が入るはずです。
yi という音は、日本語の中で「い」と区別されてこなかった、と考えられています。そのため、や行の「い」にあたる字は、ふつうの仮名にはありません。
ye のほうは事情が違います。ずっと昔の日本語では、あ行の「え」と、や行の「え」(ye に近い音)は別の音だったと考えられています。ただ、この区別は平安時代のころにはなくなったとされ、それを書き分ける仮名も残りませんでした。
いまの五十音表で、や行の「い」と「え」のマスが空いていたり、あ行と同じ「い」「え」が入っていたりするのは、このためです。
わ行の「ゐ」と「ゑ」
わ行は、w の音に母音をつけた行です。ここには、いまは使わない字が二つあります。い段の「ゐ」と、え段の「ゑ」です。
「ゐ」はもともと wi、「ゑ」は we に近い音で、「い」「え」とは別の音だったと考えられています。その後、発音の区別はなくなり、「い」「え」と同じ音になりました。それでも字は書き分けられ続けました。
字の書き分けがなくなったのは、20世紀になってからです。文化庁の「現代仮名遣い」の前書きには、歴史的仮名遣いは、明治以降、1946年(昭和21年)の「現代かなづかい」が行われる以前には、社会一般の基準として行われていた、と書かれています。それ以前は、「ゐ」や「ゑ」を使う決まりのほうがふつうだったのです。
同じ資料の歴史的仮名遣い対照表には、いまの仮名遣いで「い」と書く言葉のうち、歴史的仮名遣いでは「ゐ」と書いたものとして「井戸」「居る」が、「え」と書く言葉のうち「ゑ」と書いたものとして「声」「絵」が挙がっています。「こゑ」「ゑ」と書いていた、ということです。
わ行の「う」にあたる字は、ふつうの仮名にはありません。
「を」だけが残った
わ行のお段の「を」も、いまの話し言葉では「お」と同じ音です。それでも「を」は残りました。現代仮名遣いの本文 第2に「助詞の「を」は,「を」と書く。」という決まりがあるからです。「本を読む」の「を」です。
「を」は、助詞として使う字として残された、と言えます。使い分けについては「を」と「お」、「は」と「わ」、「へ」と「え」の使い分けに書きました。
「ん」は表の外
「ん」は、子音と母音を組み合わせた音ではないので、どの行にもどの段にも入りません。五十音表では、わ行のとなりや下など、表の外に置かれることが多い字です。46字の最後の1字は、表のマスの外にいる、ということです。
いろは歌は47字
仮名をすべて一度ずつ使った歌として知られる「いろは歌」は、47字でできています。いろは歌には「ゐ」と「ゑ」が入っていて、「ん」は入っていません。
いろは歌の47字から「ゐ」「ゑ」をのぞくと45字。そこに「ん」を足すと、いまの46字になります。数字の違いは、こうして説明できます。
いまも残る「ゐ」と「ゑ」
「ゐ」と「ゑ」は、いまの文章ではほとんど見かけませんが、まったく消えたわけではありません。会社や商品の名前などで、カタカナの「ヰ」「ヱ」を見かけることがあります。
現代仮名遣いの前書きには、固有名詞などでこれによりがたいものは除く、とあります。名前は、昔の書き方のまま使い続けてよい、ということです。こどもと街で見つけたら、「昔のわ行の字だよ」と教えてあげると面白いと思います。
こどもに聞かれたら
私は、こどもには次のくらいで十分だと思っています。
「昔は、ここにも字があったんだよ。でも、ほかの字と同じ音になったから、使わなくなったの」
これで、空いたマスは「まちがい」ではなく「昔の名残」だと分かります。もう少し興味を持ったこどもには、「ゐ」と「ゑ」の字を見せてあげるとよいと思います。いまの字と形がまったく違うので、驚くかもしれません。
五十音表の空いたマスは、日本語の音が長い時間をかけて変わってきたことを、表の上に残しているのだと私は考えています。表を覚えるときには、空いたマスを覚えなくてよい場所として、知っておくだけで十分です。表の覚え方は五十音表の覚え方:行と段の並びをつかむにまとめています。
あいうえおのアプリの表では
あいうえおのアプリは、タップすると音が鳴る五十音表のアプリです。表は右端があ行、左端がわ行で、縦書きの五十音表と同じ並びです。この向きについて、開発者インタビューで私は「日本語は縦書きで書く言語なので、それに合わせました」と話しました。
表のや行の列には「や」「ゆ」「よ」が入り、い段とえ段のマスは空いています。左端のわ行の列には、上から「わ」「を」「ん」が入り、そのあいだのマスは空いたままです。「ゐ」「ゑ」はありません。いまのひらがなの46字が、空いたマスと一緒にそのまま見える表です。
字をタップすると、その音が一字ずつ流れます。点数やごほうびはなく、こどもが自分で表を押して確かめるための道具です。画面下のボタンで、カタカナやローマ字、濁音・半濁音・拗音の表にも切り替えられます。
iPhone と iPad で使え、どちらも横向きの画面です。iPad では表の下に書く場所があり、指でも Apple Pencil でも書けます。1,500円の買い切りで、広告やアプリ内課金はありません。使い方はあいうえおのアプリの始め方でご紹介しています。
