洋書を読むには英単語がいくつ必要か:語彙数とカバー率の目安

語彙研究で知られる Paul Nation は、2006年の論文「How Large a Vocabulary Is Needed for Reading and Listening?」で、ひとつの目安を示しました。書かれた英文を辞書なしで理解するのにテキストの98%の語を知っている必要があるとすれば、8,000から9,000のワードファミリーが要る、というものです。話し言葉では6,000から7,000でした。
8,000という数字を見て、気が遠くなる方も多いと思います。私もこの数字をそのまま「洋書を読むための条件」と受け取る必要はないと考えています。この記事では、この数字が何を意味しているのか、どこまで当てにしてよいのかを順に書きます。
カバー率という考え方
ここでいう98%は、テキストに出てくる語のうち、知っている語の割合のことで、「カバー率」と呼ばれます。98%なら、50語に1語が知らない語です。ペーパーバックの1ページを300語くらいとすると、1ページに知らない語が6つほどある計算になります。
この98%という線は、Hu と Nation が2000年に発表した研究がもとになっています。短い物語の一部の語を知らない語に置き換え、知っている語が80%、90%、95%、100%の版を学習者に読ませて理解度を比べたものです。95%では十分に理解できた人は少なく、そこから、多くの学習者が辞書なしで小説を理解するには98%ほどが必要だろう、と結論づけました。98%そのものを試したわけではない点は、覚えておいてよいと思います。
95%と98%、二つの目安
もう一つよく引かれるのが、Batia Laufer と Geke Ravenhorst-Kalovski による2010年の論文「Lexical threshold revisited」です。この論文は、線を二つに分けました。
- 最低限の理解には95%のカバー率が必要で、それには4,000から5,000のワードファミリーが要る。
- 十分な理解には98%のカバー率が必要で、それには8,000のワードファミリーが要る。
95%は、20語に1語が知らない語です。1ページに15語ほどになります。辞書を引かずに読み通すには苦しい量ですが、筋は追える、というのがこの線の意味だと私は理解しています。なお、この論文の数字は、人名や地名などの固有名詞を知っている語に含めて数えています。
「ワードファミリー」と「語」は違う
ここで気をつけたいのは、研究の数字の単位です。ワードファミリーは、一つの語と、その変化形や派生語をまとめた単位です。たとえば read、reads、reading、reader は一つのファミリーとして数えます。
一方、学校の英語でいう語数は、ふつうは一つ一つの語を数えたものです。今の学習指導要領では、小学校で600から700語、中学校で1,600から1,800語、高校で1,800から2,500語を扱うことになっていて、合わせると4,000から5,000語程度になります。
この4,000から5,000語と、Laufer たちの4,000から5,000ワードファミリーは、同じ数字に見えますが、同じものではありません。数え方が違ううえに、学校の語数は授業で扱う語の数で、身についた語の数ではないからです。高校を卒業した時点で、原書の95%に届いている人は多くないと思います。
数字と実際に読む感覚のずれ
それでも、研究の数字が示す8,000よりずっと少ない語彙で、洋書を楽しく読んでいる学習者はいます。Schmitt たちが2011年に発表した研究では、知っている語の割合が上がるほど理解度もなだらかに上がり、ある線を越えると急に読めるようになる、という境目は見つかりませんでした。95%や98%は「ここから読める」という壁ではなく、目安の一つだと考えるのがよいと思います。
私は、数字と実際の感覚がずれる理由がほかにも三つあると考えています。
一つめは、本によってカバー率が大きく違うことです。研究の数字は、いろいろな文章を平均したものです。こども向けの本や、会話の多い小説は、少ない語彙で高いカバー率になります。逆に、19世紀の大人向けの小説は、同じ語彙でもカバー率が下がります。
二つめは、一冊の本の中では同じ語が繰り返し出てくることです。冒頭で知らなかった語も、何度か出会ううちに知っている語になります。最初の数章がいちばん苦しく、後半ほど楽になるのはそのためです。
三つめは、知らない語の全部が大事なわけではないことです。服の色や家具の名前が分からなくても、話の筋は追えます。
NGSL という目安
自分の語彙の土台を確かめるのに、私は NGSL(New General Service List)を目安にするのがよいと考えています。英語の大規模なコーパスから、よく使われる語を選んだリストです。NGSL の公式サイトによると、最新版の1.2は2,809語で、一般的な英文のおよそ92%をカバーします。
92%は、まだ95%に届きません。12語に1語ほどが知らない語です。ただ、この2,800語ほどを知っていることが、洋書を読むための出発点だと思います。そこから先の語彙は、本を読みながら、本の中で出会って増やしていくのがいちばん自然だと私は考えています。
語彙が足りないうちにできること
語彙がまだ足りないと感じるなら、読むものを語彙に合わせるのが近道です。多読用のシリーズは、使う語の数を決めて書かれているので、自分の語彙に合った段階を選べます。段階の選び方はレベル別の洋書の選び方に書きました。
原書を読みたい場合は、こども向けの本や短い話から入るのがよいと思います。1ページを読んでみて、知らない語が数えられる程度なら、その本は読めます。数えるのが嫌になるほどなら、まだ早いと考えて、別の本にしてかまいません。英語の本の読み方そのものについては、英語多読のやり方にまとめています。
ABC George で語彙の目安を見る
私が作っている iPhone・iPad 用の無料の多読アプリ ABC George には、単語帳に NGSL(2,801語)、学術英語の NAWL(963語)、話し言葉の NGSL-Spoken(721語)のリストが入っています。上で書いた「土台の2,800語」を、リストとして眺めることができます。
読んでいる途中で単語を長押しして「Look up」を押すと、まず NGSL と NAWL をもとにしたやさしい英語の定義、その下に WordNet の語義が出ます。調べた単語は、出会った文と一緒に単語帳の「My words」に自動で保存されるので、一冊読み終えたときに、その本で何語を調べたかが分かります。
広告もアカウント登録もなく、本をダウンロードしたあとはオフラインで読めます。最初の一冊までの手順はABC George の始め方に書きました。
