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ローマ字のヘボン式と訓令式の違い

OBARA HirokiOBARA Hiroki · DeveloperStudyX Japanese Letters Table使い方
ローマ字のヘボン式と訓令式の違い

2025年12月22日、「ローマ字のつづり方」を定めた内閣告示が改められました。1954年(昭和29年)の告示が廃止され、ヘボン式を基本とするつづり方が新しいよりどころになっています。約70年ぶりの改定です。

小学校3年生でローマ字を習うと、学校では「si」、駅やパスポートでは「shi」と書いてあって、こどもも大人も戸惑う、ということがよくありました。この記事では、ヘボン式と訓令式の違いをまず整理し、そのうえで今回の改定で何が決まったのかを、文化庁の資料をもとにまとめます。

ヘボン式と訓令式は何が違うのか

ローマ字のつづり方には、いくつかの方式があります。よく使われてきたのが次の二つです。

  • ヘボン式: 英語の読み方に近づけたつづり方です。名前は、幕末に来日したアメリカ人の宣教師ヘボンが辞書で用いたことに由来します。
  • 訓令式: 五十音表の行と段に合わせて、規則的につづる方式です。1954年の内閣告示で「第1表」として示され、主として使うつづり方とされていました。

二つが違うのは、一部の音だけです。多くの字、たとえば「か ka」「な na」「ま ma」は、どちらで書いても同じです。違いが出るのは主に次の音です。

仮名 訓令式 ヘボン式
し si shi
ち ti chi
つ tu tsu
ふ hu fu
じ zi ji
ぢ zi ji
しゃ・しゅ・しょ sya・syu・syo sha・shu・sho
ちゃ・ちゅ・ちょ tya・tyu・tyo cha・chu・cho
じゃ・じゅ・じょ zya・zyu・zyo ja・ju・jo

訓令式は、さ行なら「sa si su se so」、た行なら「ta ti tu te to」と、子音の字がそろいます。五十音表の仕組みがそのまま見えるので、規則として覚えやすい方式です。ヘボン式は、「し」を英語を話す人が読んでも「シ」に近い音になるよう「shi」と書きます。そのかわり、さ行の中に「sh」が混じり、た行には「ch」と「ts」が混じります。

私は、この「し・ち・つ・ふ」こそが、ローマ字の学習を難しくしているところだと思っています。こどもにとっては、「さ行は s」と覚えた直後に「でも、しだけは shi」と例外を覚えることになるからです。

2025年の改定で決まったこと

1954年の告示には、表が二つありました。主として使う「第1表」(いわゆる訓令式)と、国際的な関係などで従来の慣例をすぐに改めにくい場合に限って使ってよい「第2表」です。「shi」「tsu」「fu」はこの第2表にありました。

ところが実際の社会では、パスポートや道路標識、駅の案内など、ヘボン式が広く使われてきました。文化審議会の答申の概要は、第1表は「一般の社会生活において十分に定着してこなかった」とし、学校教育では主として訓令式が扱われてきたと整理しています(答申の概要)。

経緯は次のとおりです。

  • 2024年5月、文部科学大臣が文化審議会に「これからの時代におけるローマ字使用の在り方について」を諮問
  • 2025年8月20日、文化審議会が「改定ローマ字のつづり方」を答申
  • 2025年12月22日、「ローマ字のつづり方」(令和7年内閣告示第4号)を告示。昭和29年の告示は廃止
  • 2026年2月、文化庁国語課が告示に関するQ&Aを公開

新しい告示の本文で決まったことのうち、主なものを挙げます。

表は一つになりました。 し shi、ち chi、つ tsu、ふ fu、じ ji、しゃ sha、ちゃ cha、じゃ ja。いずれもヘボン式のつづりです。「ぢ」は ji、「づ」は zu で、「じ」「ず」と書き分けません。「を」は o です。

ただし、ヘボン式をそのまま採用したわけではありません。 ヘボン式では「新橋」を「Shimbashi」のように、b・m・p の前の「ん」を m と書くことがありますが、新しいつづり方では「ん」はすべて n です(乾杯は kanpai、新聞は shinbun)。小さい「っ」もすべて子音字を重ねて書き、「日直」は nicchoku、雑誌は zasshi です。Q&Aでは、日本語を母語とする人には、この書き分けを聞き分けたり書き分けたりすることが難しいことを理由に挙げています。

のばす音の書き方が二つになりました。 「ō」のように母音字の上に符号を付ける書き方に加えて、符号を使わない場合は「Oono」「Touhoku」のように、現代仮名遣いと同じつづりで母音字を並べてもよいことになりました。「おの」と「おおの」がどちらも「Ono」になってしまうのを避けるためです。

「ん」のあとに母音が続くときは「’」で区切ります。 「単位」は tan’i と書き、「タニ」と読まれないようにします。

すでに定着している表記は、すぐに変えなくてよいとされています。 「judo」「matcha」のような表記や、「Ohtawara」のように長音に h を使う地名、個人や団体の名前のつづりは、当事者の判断が尊重されます。パスポートのように各分野で定着してきたルールについても、すぐに変更を求めるものではないと、Q&Aは書いています。

キーボードのローマ字入力は関係ありません。 答申の概要は、つづり方と情報機器への「ローマ字入力」は別のものであり、入力方法に変更を求めるものではないとしています。「を」を入力するときに「wo」と打つのは、これまでどおりです。

身の回りのローマ字は、なぜばらばらなのか

改定のあとも、身の回りのローマ字は一つにそろっていません。それぞれが別のルールで書かれているからです。

パスポートの氏名は、旅券法施行規則にもとづいてヘボン式で書きます。ただしパスポートでは、原則として長音を書かず(大野は ONO、佐藤は SATO)、b・m・p の前の「ん」は M(本間は HOMMA)、「ッチ」は TCH(八丁は HATCHO)と書きます(神奈川県のパスポート案内)。新しいつづり方とは、ここが違います。

駅名も同じで、Q&Aでは東京メトロの駅の表示が「Nihombashi」「Shimbashi」と m を使っている例が挙げられています。

一つのものを見て「正しいのはどれか」と考えるより、「これはどのルールで書かれているか」と考えるほうが、こどもにも説明しやすいと思います。

学校ではどうなるのか

ローマ字は、小学校学習指導要領で3年生の国語に入っています。「日常使われている簡単な単語について,ローマ字で表記されたものを読み,ローマ字で書くこと」とあり、コンピュータで文字を入力する学習との関連も図るよう書かれています(小学校学習指導要領(平成29年告示))。

改定を受けて、教科書の検定基準は、ローマ字のつづりについて新しい告示によることに改められました(文部科学省の資料)。文部科学省は学習指導要領の解説も、ヘボン式を基本に指導する内容に更新すると報じられています(教育新聞、2025年12月16日)。新しいつづりの教科書がいつから教室で使われるかについては、私は確かな情報を見つけられていません。いま手元にある教科書には、まだ訓令式が載っていることもあると思います。

ですから当面は、学校で訓令式を習い、街でヘボン式を見る、ということも続くはずです。どちらか一方を「間違い」と教える必要はありません。告示のQ&Aも、訓令式や日本式がなくなるわけではなく、それぞれの考え方で使うことが考えられるとしています。

こどもにはどちらから教えるか

私は、新しい告示に合わせて、ヘボン式を基本に覚えるのがよいと考えています。社会で目にするつづりと一致するので、覚えたことがすぐに使えるからです。

ただ、ヘボン式で覚える場合も、訓令式の表が無駄になるわけではありません。「し・ち・つ・ふ」でつまずいたときは、「本当は si と書けば五十音表どおりなのだけれど、英語の読み方に合わせて shi にしている」と説明すると、例外の理由が分かって納得しやすくなると思います。

それから、こどもには、興味を持ったものから自然に学べるようにしたらいいと思っています。自分の名前、好きな電車の駅名、お菓子の袋に書いてある文字。身の回りにはローマ字がたくさんあります。表を順番に全部覚えるより、気になったものを一緒に読んでみるほうが、ずっと長く覚えていられるはずです。

あいうえおのアプリのローマ字モード

あいうえおのアプリには、五十音表をローマ字で表示するモードがあります。画面下のボタンで、ひらがな「あ」、カタカナ「ア」、ローマ字の大文字「A」、小文字「a」の4つを切り替えられ、濁音・半濁音・拗音の表もローマ字で見られます。表の字をタップすると、その音が流れます。

つづりはヘボン式で、し shi、ち chi、つ tsu、ふ fu、じ ji、しゃ sha です。「ん」は n です。一つ違うのは「を」で、アプリでは wo と表示しています。これは旧告示の第2表にあったつづりで、キーボードのローマ字入力でも wo と打ちます。新しい告示では「を」は o なので、ここは知っておいていただければと思います。また、長音や小さい「っ」は表に入っていないので、そのローマ字は扱っていません。

聞こえた音を表の字をタップして答える「ききとりあそび」も、ローマ字のモードのまま遊べます。仮名を覚えたこどもが、同じ音をローマ字で探してみる、という使い方ができます。

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