小学生の漢字の覚え方:書いて覚えるときの手順

小学校の6年間で習う漢字は1,026字です。1年生で80字、2年生で160字、3年生で200字、4年生で202字、5年生で193字、6年生で191字。学年が上がるほど一度に覚える字が増え、週ごとの漢字テストの点が急に伸びなくなる、という話は珍しくありません。
家で練習を見ていると、つい「もっとたくさん書かせる」方向に考えがちです。私は、回数より先に手順を見直したほうがよいと考えています。この記事では、漢字を書いて覚えるときの手順を、学校の決まりごとと、記憶についてよく知られた研究をもとに整理します。
学校は「読む」が先、「書く」はあとから
最初に知っておくと楽になるのが、学校での読みと書きの扱いの違いです。小学校学習指導要領(平成29年告示)の国語では、3年生以降について、その学年までに習う漢字を「読むこと」とし、書くほうは「当該学年の前の学年までに配当されている漢字を書き」「当該学年に配当されている漢字を漸次書き」と書いています。
つまり、その学年の漢字は1年かけて読めるようにし、書けるようになるのは少しずつでよく、前の学年の漢字はきちんと書けることが求められている、という形です。
このことから、家での練習には二つの順番が見えてきます。
ひとつは、新しい字は「読み」から入ることです。読めない字を書かせても、覚える手がかりがありません。教科書の文の中で読めるようになってから、書く練習に進むほうが自然だと思います。
もうひとつは、前の学年の字を放っておかないことです。テストで落とす字を調べると、新しい字よりも、前の学年で一度覚えたはずの字のほうが多い、ということがよくあります。今週の範囲だけでなく、去年の字にも少し時間を割くほうが、点は安定しやすいと考えています。
「何回書くか」より「思い出して書くか」
漢字の練習というと、お手本を見ながら同じ字を10回、20回と書くやり方が一般的です。これは形を手に覚えさせるには役に立ちます。ただ、お手本を見ながら書いている間、頭は「写す」ことに使われていて、「思い出す」ことには使われていません。
テストでは、お手本はありません。読みだけを見て、字を思い出して書きます。記憶の研究では、覚えたものを思い出す練習そのものが記憶を強くすることが知られています。「テスト効果」と呼ばれるもので、たとえばRoediger と Karpicke の2006年の研究では、文章を読み直すより、思い出して書き出す練習をしたほうが、数日後のテストの成績がよくなりました。漢字の書き取りで同じ実験をしたものではありませんが、考え方はそのまま使えると思います。
家でできる形にすると、次のようになります。
- お手本を見て、2〜3回ていねいに書く。 書き順と形を確かめる段階です。ここは回数を増やさなくてかまいません。
- お手本を隠して、読みだけを見て書く。 書けなければ、お手本を見て確かめ、もう一度隠して書きます。
- 時間をおいて、もう一度読みだけで書く。 翌日、数日後と間をあけるのが大事です。
3つ目の「間をあける」ことにも理由があります。同じ量を練習するなら、一度にまとめるより、日をあけて分けたほうが長く覚えていられることが、多くの研究で確かめられています(Cepeda らによる2006年のまとめ)。テストの前日に20回書くより、月曜に5回、水曜に読みだけで1回、金曜にもう1回のほうが、同じ手間で残りやすいということです。
書き順と部首は「形をつかむ道具」
書き順と部首は、それ自体を覚えることが目的ではなく、字の形をつかむための道具だと私は考えています。
書き順を守ると、字の形が崩れにくくなります。学習指導要領も1・2年生の書写で「筆順に従って丁寧に書くこと」を挙げています。学校で教える漢字の書き順は、文部省が1958年にまとめた「筆順指導の手びき」がもとになっていますが、その手びき自身が、示した以外の筆順を誤りとするものではないと断っています。ですから、家では「教科書と同じ書き順で書けているか」を確かめれば十分です。調べるときは、このサイトの小学校で習う漢字の書き順で、1年生から6年生までの字を一画ずつ確かめられます。
部首は、字をいくつかの部品に分けて覚える手がかりになります。「詩」なら「言」と「寺」、「清」なら「氵」と「青」というように、知っている部品の組み合わせとして見ると、覚えるものが減ります。3年生あたりから字が複雑になるので、この見方が効いてくると思います。
とめ・はね・はらいについては、採点の厳しさに戸惑う保護者の方も多いと思います。文化審議会国語分科会の「常用漢字表の字体・字形に関する指針」は、手書きの字の形は多様であり、字としての骨組みが認められるなら細部の違いで誤りと判断すべきではない、という考え方を示しています(文化庁広報誌の解説)。家ではまず、線の数、交わるか離れるか、長いか短いかという骨組みを確かめ、細部はその次でよいと考えています。
1日の量の目安
量については、決まった正解はないと思います。私の考えとしては、毎日10〜15分ほどで、その日の新しい字は3〜5字ほどにとどめ、残りの時間を「読みだけで書く」復習に回すくらいがちょうどよいと考えています。
大事なのは、終わったときに「今日は何が書けなかったか」が分かっていることです。書けなかった字に印を付けておき、翌日はそこから始める。これだけで、同じ10分でも中身が変わります。
「100回書く宿題」について
ノートに同じ字を何十回も書く宿題には、手を動かす量を確保する、字の形を整える、という意味はあると思います。ただ、回数が多いほど、後半は手だけが動いて頭は休んでいる時間になりがちです。もし同じ時間を使うなら、そのうちの何割かを「お手本を隠して書く」に回すほうが、テストの点にはつながりやすいと私は考えています。宿題そのものを否定するつもりはなく、家庭で足すなら思い出す練習を、という意味です。
ノートとアプリの分け方
ノートの良さは、鉛筆で紙に書く感覚そのものを練習できることと、マス目の中で字の大きさや配置を整えられることです。学校のテストは紙なので、最後はやはり紙で書けることが目標になります。
アプリの良さは、答え合わせをその場でしてくれることと、出題の順番を混ぜてくれることです。「読みだけを見て書く」練習は、大人がそばで問題を出し、丸をつけないと成り立ちにくいのですが、アプリならこどもが一人でも進められます。
私の考える分担は、形を整える練習はノート、思い出して書く練習とその答え合わせはアプリ、です。
カンジンでの練習の流れ
カンジンは、こうした「思い出して書く」練習ができる、iPhone・iPad 向けの漢字アプリです。答えはタップではなく、画面に指やペンで書いて答え、手書きの文字はアプリが認識します。
上に書いた手順に当てはめると、次のように使えます。
- 読みから入るには「読みドリル」。漢字を見て、読みをひらがなで手書きして答えます。
- 形を確かめるには「美文字ドリル」。書き順をなぞって形を覚え、お手本と比べて採点されます。
- 思い出して書くには「書きドリル」。読みに合う漢字を手書きで書きます。まとめて確かめたいときは「書きテスト」があります。
- 部品で覚えるには「部首わけ」と「部首合成パズル」。
出題の範囲は小1〜小6の学年別のほか、漢検10級〜5級、JLPT N5〜N3 から選べます。学校のテストの範囲に合わせたいときは、「マイデータ」に例文と答えの漢字と読みを入れて、自分の問題を作ることもできます。
無料で使えるのは「今日のドリル」「今日のチャレンジ」と、10問で今の漢字のレベルの目安を出す「実力チェック」です。すべてのドリルは1,500円の買い切りで開き、広告やサブスクリプションはありません。手書き認識のモデルを最初にダウンロードするので、はじめて使うときだけインターネット接続が必要です。
もちろん、アプリだけで漢字が身につくとは考えていません。紙のノートで形を整え、アプリで思い出す練習をする。その二つを行き来するのが、いまのところ私の考える一番よい組み合わせです。
最初の使い方はカンジンの始め方で、ほかの練習方法との違いはカンジンと他の漢字練習の比較でご紹介しています。
