運筆練習とは:文字を書く前に線を引く練習

「運筆」という言葉は、小学校の学習指導要領にも出てきます。小学校学習指導要領(平成29年告示)の国語では、1年生と2年生で「点画の書き方や文字の形に注意しながら,筆順に従って丁寧に書くこと」を学び、その指導は「適切に運筆する能力の向上につながるよう,指導を工夫すること」とされています。
運筆とは、筆記具を思った方向へ、思った長さだけ動かすことです。幼児向けのドリルで「うんぴつ」と呼ばれているのは、文字を書く前に、線を引くことだけを練習するページです。この記事では、運筆練習で何をするのか、何歳ごろからどんな順番で進めるとよいかについて、私の考えを書きます。
運筆練習で身につけること
文字は、線の組み合わせです。ひらがなの「し」は上から下へ下ろして右へ曲げる線、「つ」は右へ進んで下へ回る線、「く」は途中で向きを変える線です。文字を書くには、線を引き始める場所で止まり、決まった方向へ進み、決まった場所で止まる、という動きが要ります。
運筆練習は、この動きを、文字の形を覚えることと切り離して練習するものだと私は考えています。文字の練習では、こどもは形を思い出すことと手を動かすことを同時にしなければなりません。線だけなら、手を動かすことに集中できます。
もうひとつ良いところは、間違いがないことです。文字には正しい形がありますが、線には少しはみ出しても「だいたいできた」と言える余地があります。こどもにとっても大人にとっても、気楽に始められる練習です。
何歳ごろから始めるか
決まった年齢はありません。ただ、目安になる様子はあります。
2歳前後のこどもは、紙にぐるぐると描いたり、点を打ったりします。これは「なぐり描き」と呼ばれる段階で、線を引く練習の前の段階です。この時期は、描くこと自体を楽しんでいれば十分だと思います。
線の練習として始めやすいのは、3歳前後からだと私は考えています。大人が引いた線をまねして引こうとする、点線の上をたどろうとする、といった様子が見えてきたら、始めてよい時期です。鉛筆の持ち方は、まだグーで握っていてもかまいません。持ち方の育ち方については鉛筆の持ち方の教え方に書きました。
文字そのものを書き始める目安については、ひらがなは何歳から書ける?書き始めの目安と準備にまとめています。運筆はその前の段階なので、文字に興味が出る前から始めて問題ありません。
線の順番
私が勧める順番は、次のとおりです。易しい線から、向きを変える線、回る線へと進みます。
1. まっすぐな線
上から下への縦線、左から右への横線。始めの点と終わりの点を決めて、その間を結びます。最初は長さ10センチほどの太い線を、紙の上に大人が引いておき、その上をなぞります。
縦線は上から下へ、横線は左から右へ、と向きをそろえておくと、そのまま文字の書き方につながります。漢字やひらがなの多くの線が、この向きで書かれるからです。
2. ななめの線
右上から左下へ、左上から右下へ。縦と横より難しく、こどもの線は途中で縦か横に寄っていきがちです。ななめ線は、カタカナの「ノ」や「メ」に出てきます。
3. 曲がる線と波の線
ゆるい弧、山がいくつも続く波。止まらずに向きを少しずつ変える動きです。ここでは、線の太さやはみ出しより、途中で止まらずに引けるかを見ます。
4. ギザギザの線
山と谷がとがった線です。波と違い、角で一度止まって向きを変えます。この「止まって向きを変える」動きは、ひらがなの「く」やカタカナの「レ」のような文字で使います。
5. 丸とうずまき
丸を閉じるのは、意外に難しい動きです。書き始めた場所に戻ってこなければなりません。うずまきは、外から内へ回るか、内から外へ回るか、向きを決めて練習します。
6. 組み合わせ
十字、四角、三角。線と線が交わったり、角でつながったりする形です。ここまで来ると、文字まであと一歩だと思います。
この順番は厳密なものではありません。ぐるぐる描くのが好きな子なら、丸から始めてもかまいません。大事なのは、易しい線で「できた」を重ねてから、難しい線へ進むことだと考えています。
迷路と点つなぎも運筆練習
迷路と点つなぎは、線の見本がない運筆練習です。
迷路では、道の幅が線のはみ出しの許される幅になります。最初は道の太い迷路を選び、少しずつ細い道へ進めます。分かれ道を考えながら線を引くので、手を止めずに目と頭を使う練習にもなります。
点つなぎでは、次の点で止まることが練習になります。行き過ぎず、手前で止まらず、ちょうど点の上で止める。これは文字の線の「とめ」につながる動きです。数字の順につなぐものは、数を読めるようになってからのほうが楽しめると思います。
どちらも、なぞる線がない分、なぞり練習より少し難しくなります。私は、まっすぐな線のなぞりが楽にできるようになってから、迷路や点つなぎに広げるくらいがよいと思います。
紙と道具
太めのクレヨンや水性ペンから。 軽い力で濃い線が出るものが向いています。細い鉛筆で薄い線しか出ないと、こどもは自分の引いた線が見えにくく、手に力が入ります。
紙は大きめに。 最初はA4よりも大きな紙に、大きな線を引くほうが楽です。腕全体で引く大きな線から、手首と指で引く小さな線へと、だんだん小さくしていきます。
見本は大人が手で描いてよい。 市販のドリルでなくても、運筆の見本はすぐ作れます。紙に太い点線を引き、始めの場所に小さな丸を描いておく。それだけで十分です。こどもの好きなものを線の終わりに描いておくと、「ここまで行こう」と目標がはっきりします。
見るところと、やめどき
運筆練習で私が見るのは、線がきれいかどうかより、次の三つです。
- 決めた場所から始められているか。
- 決めた向きに進めているか。
- 決めた場所で止まれているか。
はみ出しは、気にしすぎなくてよいと思います。それよりも、毎回違うところから書き始めていたり、下から上へ線を引いていたりするなら、そこを一緒に確かめます。
1回の時間は、数分で十分です。同じ線を何枚も繰り返すと、こどもは飽きます。今日は縦線を3本、明日は波を2本、くらいの量で、楽しいうちに終えるのがよいと私は考えています。
BrainDojoきっずでできること
BrainDojoきっずは、3歳から6歳向けの iPhone・iPad アプリです。指やペンで画面に書いて、文字や数を練習します。
運筆には「はじめてのうんぴつ」というコースがあります。文字を書く前の線の練習のためのコースで、まっすぐな線から始まり、ななめの線、波の線、うずまきへと、この記事に書いたような順番で線をなぞっていきます。最初の4ステージは無料です。なぞる向きは、左から右、上から下の自然な向きに決まっています。
トレーニングの中には「めいろ」もあります。毎日入れかわる「きょうのトレーニング」3つと「おすすめ」4つは無料で、それ以外のゲームも各1回はおためしできます。
紙で練習したいときは、ツールの「なぞりシート」で練習用のシートを印刷できます。ひらがなの1枚目は無料です。画面で線の向きをなぞって覚え、紙の上でクレヨンや鉛筆を使って引く、という使い分けができます。
保護者の設定には1日の利用時間の上限があり、初期値は10分です。広告はなく、アカウント登録もいりません。基本は無料で、すべてのコースとゲームを使うにはプレミアム(月額または年額)の登録が必要です。
最初の使い方はBrainDojoきっずの始め方で、毎日つづけるコツはBrainDojoきっずを毎日つづけるためのヒントでご紹介しています。
